ご対面

「は? 好きになっちゃった?!」


深夜のファミレスに中谷の声が響いた。


「好きになっちゃったって、お前、そんなことにはならないって、JKだぞって、言ってたじゃねぇか!」


「うん、まぁね……」


分が悪い僕は、歯切れも悪い。


「そんなにいい子なんだ、羽月ちゃんて?」


「うん、それは間違いないな」


中谷は少し考え込んでから、言葉を選びながら言った。


「失礼な質問になるけど、その羽月ちゃんて、怜ちゃんに似てるとかじゃないよな?」


「いや、それは無いな。タイプが全然違うよ。見た目も性格もね」


「……そうか。ならいいんだけど…」


中谷は僕が誰かを好きになったということが信じられないようだ。


「よし、決めた」


「どうした? いきなり」


「ウチに連れてこい。カミさんが妊娠中だから長時間は無理だけど、お前がホレた子を見てみたい」


そういうわけで、羽月ちゃんと二人で中谷家を訪問することになった。


☆ ☆ ☆


僕達は『餡・どぅ・とろわ』の和菓子を手土産に中谷の家を訪れていた。

郊外のターミナル駅の徒歩圏にあるマンションの8階で、リビングからは遠くの山々まで見渡せた。


僕以外の三人をそれぞれ紹介し、お茶しながら、和菓子をつまんだ。


羽月ちゃんは、奥さんのみゆきちゃんの大きなお腹に興味津々だ。


「今、8ヶ月なの。もう元気でお腹の中から蹴飛ばしてくるのよ。どうやらお転婆さんみたい」


みゆきちゃんは愛しそうにお腹を擦った。その様子を見た羽月ちゃんが言う。


「あのぉ、私も触らせてもらってもいいですか?」


「どうぞどうぞ!」


みゆきちゃんに促されるまま、彼女のお腹にそおっと手を伸ばす。すると掌に動きを感じた。


「うわっ! 今、蹴りましたよ! すごーい!!」


「お腹の中では、外の音も聞こえてるっていうから、きっと羽月ちゃんへのご挨拶ね」


「え、そうなんですか! こんにちは、お転婆さん。元気に生まれてきてね」


お腹をスリスリしながら羽月ちゃんが言うと、ぐいんぐいんとお腹が動いた。


「あ、また動きました。今度はさっきより強く。ほんとに聞こえてるんですね」


羽月ちゃんは嬉しそうな表情を浮かべた。16歳とはいえ立派な女性だ。母性に目覚めたのかもしれない。



「ねぇ、ジュースが無くなっちゃったから買ってきてもらっていいかな?」


みゆきちゃんは中谷に言う。


「ん、わかった。じゃあ、今井も行こうぜ」


「え、俺も?」


「ペットボトルは重いんだよ。ほらお前も手伝え」


僕らは近所のコンビニへ向かった。



「今井、すごくいい子じゃないか! お前にはもったいないくらいだ」


「そうか? ありがとう」


「いや、なんでお前が感謝する?」


「ん? 確かにそうだな。ハハハッ」


「可愛いし、性格もすごくいいし。まぁ、ウチのカミさんほどではないにせよ、だけどな。大切にしてやれよ。あんないい子、そうそういないぞ」


「あぁ、そうなんだけどさ……」


僕は空を見上げた。


「怜ちゃんのことか?」


「あぁ、俺には恋愛する資格なんてないからさ……情けない話だけど、怖いんだよね」


「………」


中谷は黙っていた。


「俺、彼女には言ってないけど、羽月ちゃんのこと大好きだよ。でも、また怜みたいな目にあわせちゃうんじゃないかって……そう考えると怖くて何も言えなくてさ」


「ふぅーん、そうか……でも怜ちゃんは……。いや、それはいいか……」


中谷も空を見上げた。青空に、ぼぉっとした白い月が浮かんでいた。

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