ナポリたんはお好き?
8月下旬、羽月ちゃんのお父さんからメールが届いた。
とりあえず、ここまでの経過報告をしてほしいとのこと。家だと羽月ちゃんもいるので、お互い仕事中の昼休みに時間を合わせて会うことになった。
勤務地は渋谷だそうだ。僕の会社の本社も渋谷なので、本社に行く用事を作ってお会いすることになった。
約束の喫茶店に行くと、既に羽月ちゃんのお父さんは来ていて、ナポリタンを食べていた。
時節柄、僕はクールビズだが、お父さんはスーツにネクタイ着用だ。どこぞの会社のお偉いさんだとは聞いていたが、役職が上の人は大変だなと思った。
「ご無沙汰しております」
「おぉ、今井くん、今日はすまないね」
「いえ、こちらこそ。僕もお話ししなければいけないことがあったので……。お忙しい中、ありがとうございます」
「キミも何か食べるだろ? ここのナポリたんは絶品だぞ。『ナポリタン』じゃなくて『ナポリたん』な。もうネーミングが可愛いだろ?」
そう言って、ニコニコ顔でフォークに絡ませたナポリたんを一気に口の中に入れた。
今日のお父さんは機嫌がいいようでホッとした。
僕がナポリたんをオーダーすると、お父さんは、
「では早速本題に入ろうか」
とゲンドウポーズを取った。どうやら碇司令が好きみたい……。
「時間が無いので単刀直入に聞くが、娘とはどうだい?」
「はい、実は大変申し訳無いのですが、僕は羽月さんに恋愛感情を持ってしまいました。ですのでお約束した件は、無かったことでお願いします」
僕は正直に話した。
コップの水をかけられるくらいは覚悟していたが、お父さんの反応は意外なものだった。
「そうか、惚れちゃったか、そうかそうか」
と、嬉しそうに頷いている。
不思議に思い、聞いてみた。
「こんなあっという間に約束を破ることになってしまったのに、お叱りにならないのですか?」
「うむ、まあそうなんだがね。ここのところ、羽月と顔を合わすといつもニコニコニコニコしていて、『今井さんが、今井さんが』って嬉しそうに言ってくるんだよ。あの子は年の離れた娘なので特に可愛くてね。君には恋愛指南してくれなんて言ったが、偽りではなく本物の恋愛になってくれればいいなと、家内とも話していたんだよ。君ならば羽月の相手としても安心だというのが私達夫婦の考えだ。だから、これからも娘のことをどうかよろしく頼むよ」
と頭を下げた。
「あっ、いや、そんなこちらこそです。こんな僕ですが、どうぞよろしくお願い致します」
僕はお父さん以上に深々と頭を下げた。
あまりに意外な展開に驚いたが、でもこれでご両親の公認を頂いたことになるのでひと安心だ。
「ところで……」
僕がホッとしていると、お父さんが小声で聞いてきた。
「この前の流星群の時、羽月が調子悪くなって急遽ホテルに泊まったと聞いたんだが、夜中に急遽泊まれるホテルっていうと、やはりアレかい……?」
お店の人がエアコンの設定温度を下げたようだ。
僕は背中にひんやりした冷気を感じた。
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