レフティモンスターの正体

僕たちは歩いた。

彼女の右腕を掴んだまま。

人混みをかき分けて。

何も話さず無言のまま。


立ち止まったら、

声に出したら、

彼女が壊れてしまいそうで……。



ひとしきり歩いたところで、大きな公園にたどり着いた。


僕たちは大きな木の下にあるベンチに腰掛けた。


「もう大丈夫だよ。ごめんね、そしてありがと」


そう声を掛けると、彼女の瞳から大粒の涙が溢れだした。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」


まるで幼い子供のように、ひっくひっくと肩をひきつらせながら彼女は謝り続けていた。


彼女の左肩をグイっと引き寄せると、彼女は僕の左肩に顔を埋めて声をあげて泣いた。

僕は艶やかな彼女の髪に触れ、よしよしと頭を撫でた。


木漏れ日がキラキラと髪に反射する。

乾いた夏の風が心地いい。

時間がゆっくりとふたりを包んでいた。




どれくらいの間、そうしていただろうか。


冷静さを取り戻した羽月ちゃんは「ごめんなさい」と言ってペコリした。泣き続けていたため、まぶたはぼてっと腫れ上がり、目は真っ赤に充血し、鼻水を垂らしている。


「今井さん、ごめんなさい……。私、悔しくて悔しくて……。私がこんなだから、私が子供みたいだから、今井さんまであんな風に言われて……私が……、私なんて……」


羽月ちゃんはすっかり憔悴していた。


「羽月ちゃん、君はすごいよ。こんな小さくて華奢でも、ちゃんと戦ってんだよな。俺、感動したよ。俺まで泣きそうになっちゃったよ。だから自分を責める必要なんてこれっぽっちも無いから。そのままの君でいてほしいから」


「……ううっ」


僕の言葉に再び彼女が泣き出した。


「ちょ、ちょい待ち。これ以上泣いたらお嫁に行けない顔になっちゃうぞ。もう手遅れかもしれないけど……。ほ、ほらっ、鼻水垂れてるしっ!やっぱり羽月はお子ちゃまちゃーん!」


努めておちゃらけて言ってみた。


「うっく……今井ひゃん、しょれ、わらへまひぇんよ」


そう言いながら、彼女はすっかりブサイクになった顔を上げた。そして泣きながら微笑んで、左手で僕の頬を優しく張った。


「もう、こんな顔見られひゃっひゃら、今井ひゃんにお嫁にもらってもりゃうひかにゃいじゃにゃいでしゅか」


「そうかもしれないね。……でも、こんなブサイクな奥さん、やっぱり嫌だなぁ」


「あ!ひどょーい。しょんな今井ひゃんなんて、こうしてやりゅー!」


そう言って、彼女は無数の猫パンチを僕に撃ち込んできた。


レフティモンスターの正体は、泣き虫な子猫ちゃんだった。

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