レフティモンスター降臨
「今井君には大変申し訳ないんだが、私の代わりに羽月を連れていってもらえないだろうか」
羽月ちゃんのお父さんからの突然の電話。
夏休みに家族でペルセウス座流星群を見に行く予定だったが、急な会議が入り、行けなくなってしまったとのこと。
お父さんは会社でかなり上の方のポジションにいるらしく、とても重要な会議だそうだ。
そして冒頭の言葉になったわけだ。
羽月ちゃんは一度も流れ星を見たことがなく、とても楽しみにしているそうで、彼女を溺愛するお父さんからしたら、彼女のがっかりする顔は見たくないのだろう。
僕も今年は帰省するつもりだが、日程を調整して、お父さんの願いを受け入れた。
☆ ☆ ☆
今日はその準備で、人気の大型アウトドアショップにやって来た。
「まさか今井さんと流星群を見に行くことになるなんて……」
僕の左手に指を絡めながら、ニコニコ顔の羽月ちゃんが嬉しそうに言う。
「そうだね。ところで、もう罰ゲームは終わってるはずなのに、何で手を繋いでるの? 」
「えっ? そ、そ、それはですね……」
おもいっきり動揺してるのが可愛い。
「あの、ほら、アレですよ、えーっと、そうそう、今井さんはお子ちゃまだから、迷子にならないように私が手を繋いであげてるんです。店内放送で迷子のお知らせですとか言われても困っちゃいますからね」
人差し指を立てながら、微妙に偉そなことを言う。
「なるほど。じゃあ俺を離さないでね」
僕が素直に納得してみせると、
「はい。任せてくださいっ! 」
羽月ちゃんは絡めた指に力を込め、無邪気な顔で笑った。
――どきゅん
その笑顔に、僕のハートは撃ち抜かれる。彼女の笑顔の破壊力が増している気がする。
お盆休みのアウトドアショップは大変な賑わいだ。確かにボーッとしてたら迷子になりそうではある。
「ねぇ今井さん、私たちって他の人たちにはどんな風に見えるんですかね? やっぱり恋人同士とかかなぁ」
はにかみながら彼女が言う。
行き交う男女二人組は、夫婦や恋人たちがほとんどだ。手を繋いでいれば間違いないだろう。
ふたりでアレコレ物色しながら歩いていると、
「あ!今井さん! 」
と声を掛けられた。そこには会社の後輩で、本社勤務の女の子が立っていた。とても気さくで明るい子だ。
「おぉ、伊達ちゃん! 久しぶり。元気だった? 」
「はい、元気にやってます。今井さんもお元気そうですね。今日は妹さんとお買い物ですか? 」
伊達ちゃんは羽月ちゃんをチラリと見ながら言った。
「え、あ、うん、まぁ、ね……」
僕は曖昧な返事しかできなかった。
「もう、今井さんたら手なんか繋いじゃって、兄妹で仲いいんですね。こんな可愛い妹さんがいたなんて、全然知りませんでしたよ。
あ、お兄さんにはいつもとてもお世話になってます」
伊達ちゃんは羽月ちゃんに挨拶した。羽月ちゃんは無言でペコリとお辞儀をする。
「じゃあ、また会社で」
「おう、またな」
伊達ちゃんと別れて、またふたりで店内を歩く。沈黙が続いた。
羽月ちゃんの右手は所在無さげに
ぶらんとしている。
二人の間に流れる微妙な空気。
そしてそれは、最悪な奴にトドメを刺されてしまう。
「お、今井じゃん! 」
会社の一年先輩の吉田さんだ。
僕が新人の時から吉田さんを上回る業績を残してるのが面白くないらしく、何かにつけてネチネチと絡んでくるのだ。
吉田さんは僕の隣にいる羽月ちゃんを見るなり言った。
「今井が中学生と援交してるらしいって噂には聞いてたけど、アレって本当だったんだな。まさかお前がこんなロリコンだったとはなぁ」
人を小馬鹿にするような薄ら笑いを浮かべている。
僕は右手の拳をぎゅっと握り、力を込めた。
すると突然、彼女の両手が僕の拳を包み込んだ。見ると、下唇を噛んで顔を小さく左右に振っている。
それを見て僕は拳を解いた。
「すいません。急いでいるので、失礼します」
そう言って、羽月ちゃんの腕を掴んで通りすぎようとした。
「そんなぁ、逃げるなよ、ロリコンくぅん」
吉田さんがしつこく絡んできた。
次の瞬間、
――パシッ!!
乾いた打撃音が響いた。
彼女の左手が吉田さんの右頬を綺麗に撃ち抜いたのだった。
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