そして本題へ
「さて今井君、そろそろ本題に入ろうか……」
「こちらへ」とダイニングテーブルに通された。
僕の向かいにお父様とお母さんが座る。
二人は両ヒジをテーブルの上につき、口の前で両手を組んだ。いわゆるゲンドウポーズというやつだ。いつの間にかお母さんも眼鏡を掛けている。
「時間が無いので単刀直入に聞こう。今井君は羽月のことをどう思っているのかね? 」
お父様が初球からストレートど真ん中に投げこんできた。
「可愛くて、とても素敵な女の子だと思います」
僕も負けじとストレートを投げ返す。
「……それは恋愛感情があるということかね? 」
さらなる豪速球が来た。
僕は思うままに答えた。
「いいえ、恋愛感情はありません。羽月さんとは年齢も離れすぎています。強いて言えば、大切な妹のような存在です」
僕の言葉を聞くと、目の前の二人は「フーッ」とゆっくり息を吐いた。そして、再び目を合わせて深く頷いた。
いきなり「ガタッ」と椅子から立ち上がると大きな声で言った。
「今井君! 」
「頼む! どうか羽月と付き合ってやってくれ! 」
「はい? えっ? えーっ!?」
まったくの想定外の言葉に、思わず椅子から転げ落ちた。
羽月ちゃんのお父さんは、コトの経緯を説明してくれた。
彼女には姉がいるが、歳が離れて生まれた子ということもあり、家族全員が羽月ちゃんをとても可愛いがっているということ。
ちょっと天然なところがあるので、変な男に引っ掛かったりしないか心配であること。
大人になるまでに正しい恋愛を学ばせて、未来の良き伴侶を選ぶスキルを身につけてほしいと思っていること。
先日の彼女の大失恋で、『何とかしないと』ということになったそうだ。
そしてそのためには、羽月ちゃんに対して恋愛感情が無く、それなりの経験がある僕を適任と判断したということ。
要は彼女が大人になるまで、変な男に引っ掛からぬようボディーガードしつつ、恋愛指南してやってくれということだ。
「頼む、どうかあの子を助けると思って、付き合ってやってくれ」
二人は深々と僕に頭を下げた。
「あの、付き合うとかじゃなくて、近くでレクチャーするというのではダメなんですか? 」
「それでは羽月がどんな男を好きになるかわからないからな。座学よりも実際に恋愛しながら学ぶというのが一番なんだよ。いわゆるOJT というやつだ。それに今日君に会って、君になら羽月を任せられると判断してんだ。こう見えても私は勤め先で人事の責任者をやっていてね。人を見る目は確かなんだよ」
「……わかりました。その役目、僕にやらせてください。」
恋愛感情を持たずに彼氏になる。
とんでもないことを引き受けてしまったが、確かに僕は適任だと思う。
もう恋なんてしないと思っているのだから……。
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