全部食べるまで帰れまテン
彼女の家はとても立派なお宅だった。駐車場にはメレセデスとレフサス、青々とした芝生が敷き詰められた広い庭にウッドデッキ。
築年数は結構経っているようだが、白い外壁の洋館は5LDKはありそうだ。そして玄関には某セキュリティ会社のステッカーが貼られていた。
「さ、どうぞどうぞ」
案内されるままにリビングへ通された。
ハイテンションで話し続けたお母さんは、すっかり落ち着いていた。手土産に持ってきたたい焼きが入った紙袋を渡したが、それが恥ずかしくなるくらい、テーブルの上にはたくさんの料理が並べられていた。
「スゴーい! これ全部お母さんが作ったの? 」
「そうよ。あなたの恩人をご招待するのに半端なことは許されないのよ。徹夜で作ったの。今井さんには全部食べていってもらうから」
お母さんはなかなかエキセントリックな人のようだ。
「というわけだから、今井さん、遠慮せずにたーんと召し上がっていってくださいね」
お母さんが羽月ちゃんと同じ笑顔で言った。どうも僕はこの笑顔に弱い。
「はい、ありがとうございます! 」
僕も笑顔で答えたが、これって『全部食べるまで帰れまテン』ってこと? 胃腸薬持ってくればよかったと思った。
☆
お母さんが作った料理はどれもとても美味しいものだった。
「どう? 今井さんのお口に合うかしら? 」
「むちゃくちゃ美味しいです。お店で食べてるみたいです」
「それはよかったわ」
お母さんは、僕と羽月ちゃんがモグモグ食べてる様子をニコニコしながら見ている。
全室空調の快適温度で、ほのぼのした時間が流れていた。
「美味しいものを食べてる時って幸せですよねぇ~」
とろける笑顔で羽月ちゃんが言ってきたので、
「うんうん、こりゃ幸せだねー」
と、返事をしたその時、突然背中がゾクゾクした。
何事かと思い振り向くと、リビングの扉が『ギイィィィー』と古城の大扉のような音をたてながらゆっくり開いた。
『ヒューッ』と冷気が流れ込むと、そこには190センチはあると思われる長身に仕立ての良いスーツを着た男が立っていた。
シルバーフレームの眼鏡がキラーンと冷たく光る。
僕はただならぬ殺気を感じ、後ずさりしていた。
「あら、あなた、お帰りなさい。早かったわね」
本日ご出勤のお父様が早々にお帰りになられた瞬間だった。
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