直列? いえ、並列で!

「こっちですよ」


羽月ちゃんはニコニコしながら先導している。気がつくと跳ねるようにリズミカルに歩いている。

奇跡の名馬トウカイテイオーのステップのようだ。

見ているこちらも気分が軽くなってくる、そんな歩き方だった。

そんなに嬉しくなることがあったのかな?


2~3メートル前を歩いていた彼女は僕の方を振り向くと、何かに気付いたように「あ!」と声をあげ、立ち止まった。


「ん?どうかした? 」


「いえ、何でもないです」


そう言って彼女は、僕が追いつくのを待って、再び歩きだした。


今度は先導せずに、僕の横に並んで歩いた。

さっきまでは楽しげに唄を口ずさんでいた彼女なのに、急におとなしくなっている。

僕はちょっと心配になって、声をかけた。


「羽月ちゃん、大丈夫?」


「はい。大丈夫ですよ」


すっごく嬉しそうな笑顔で答えた。

でもやっぱり、その後も無言で隣を歩く彼女。


「あのさ、羽月ちゃん、大丈夫?」


左側を歩く彼女に目を向けると、お互いの腕が当たりそうなくらい近づいていた。


「ハッ! はい? あ、だ、大丈夫です……」


伏し目がちに答える彼女の頬は、紅を差したようにほんのり色づいていた。


それから5分ほど歩き、可愛らしいパン屋のある交差点を左に曲がった。2本目の路地を右折し、緩やかな坂道を少し登った。


「到着です」


すっかり紅潮し、幸せそうな表情の彼女がインターホンのボタンを押した。


ピンポーン

ガチャ


と、ほぼ同時に玄関ドアが開き、綺麗な女性が飛び出してきた。


「キャー、いらっしゃい! あなたが今井さんね。あら、素敵な人じゃない!この度は羽月が大変お世話になって本当にありがとうございました。そんな親切な人がいるなんて、この世の中も捨てたもんじゃないわねって家族で話してたんですよ。ちょっと抜けてるところがあるけど、素直な性格の良い子なのでこれからもどうぞよろしくね。あっ、良い子だなんて、親である私が言うことじゃないわね。ごめんなさいね。私ったら、恥ずかしいわ! 今日はお呼びだてしてすいませんね。私の手料理でもてなすからゆっくりしていってね。お口に合うといいんだけど…」


彼女のお母さんは、しっぽをちぎれるんじゃないかというくらい振って、うれションしまくってるわんこのような人だった。


羽月ちゃんはお母さんに似たのだろう。笑顔がそっくり。そしてぺったんこなところも……。



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