第4話 愛、すれば
1 ブレン・バウマン
「妻は死んでいる。娘も」
悪い冗談だと思った。
「笑えませんよ、教官」
「
いつもどおりの訂正。けれど、いつもよりその言葉が遠い。
「だって、みんなそんなこと、ひと言も……ジンだって」
「こんな男に、若くて美人な妻がいることが面白かったのだろう? そしてさらに調べれば、相手は
「木を隠すには森。情報戦のいろはだ。フレドリックスも頭は切れるが、まだまだひよっこのようだな。といっても、うわさを流したのは私ではないし、歳が離れて見えたのは私が歳を取っただけで……」
そして彼は、巨大な足の柱からはみ出していた肩を落とし、空に向かってつぶやいた。
「彼女が永遠に、歳を取らなくなっただけだ…」
スヴェンは呆然と立ち尽くした。そして、大きな存在として自分を導いてくれた人のかすむ背中を見つめた。
無意識に口をついて出たのは慰めでなく、質問だった。
「どうして死んだんですか?」
知りたいという欲求ではない。確認だ。
父と母。帝国に、世間に殺されたも同然の二人。そしてきっと、彼の妻と娘も。
それを聞いてもなお、ジンは
「俺には、教えてくれてもいいはずでしょ?」
怒りのにじむ声に、空を見つめるバウマン。
そのまま、ポツリと。
「殺された」
あぁ、やっぱり。グッと手のひらに爪を食いこませて、スヴェンは納得した。
そして――
「彼女と同じ、
「っ…!?」
――後ろから、頭を鈍器で殴られた気がした。
「……な、なんで…?」
「珍しい話でもない。一つの
口がうまく動かせないスヴェンとは対照的に、バウマンは淡々と話を進めた。
「だから、そうだな……たぶんお前は――」
そして、彼は語る。
「――知っておくべきなのかも、しれないな…」
十五年もの間ずっと、胸に秘めていた物語を。
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