4 超魔導投射砲


『――――この玩具おもちゃが、超魔導投射砲エーテレールガンなのか?』


 対魔賊特殊機兵部隊ミスティルテインズ所属のブレン・は、モニターへ映し出される設計図を同僚の肩越しにのぞきながら言った。バカにするような調子だったが、魔賊の根城アジト内部のほこりっぽいこの殺風景な隠し部屋には今、同僚にして親友のエリック・レッドヘルムしかいないので大丈夫だろう。

 案の定、エリックもこちらをたしなめず、自分が手を置いた肩を軽くすくめて同意した。


『お前の言うことももっともだ。だが、盗まれたデータは一部だけらしいし、なんとも言えんな』


 椅子に深く座ってキーボードを操作し始めた相棒の邪魔にならぬよう、肩に置いていた手をどかす。そして背後にあった大きな机へとブレンは腰かけた。

 机上には、この周辺の地形を模した箱庭があり、魔杖機兵ロッドギアに見立てた駒がいくつか置かれている。どうやらここで作戦を立てていたらしい。自分たちに一瞬で制圧された今となってはむなしいものだ。

 手持ち無沙汰ぶさたに駒を取り、いろいろ動かしながらエリックへ声をかける。


『どれぐらいかかりそうだ?』

『データを複製コピーされていないかも調べる。少しかかりそうだ……お前は何をやっているんだ?』

『いや、自分ならどう防衛するかな、と』

『まさに机上の空論だな。最初からこの戦力で抗えるはずがない』

『……それもそうか』


 人をかたどった木彫りの駒をパタンと倒し、ブレンは背中を向けて座る相棒へと目をやった。その貴き血筋の家名の由来でもある、あざやかな赤毛に覆われた後頭部。まぶしいその後ろ姿に覚えるのは憧憬どうけいだ。

 今は仕事上の相棒だが、彼はやがて自分の主君あるじとなる者。そのことが、そしてレッドヘルム家に仕えるブラッド家に生まれたことが、彼の背中を見るだけでいつも誇らしくなってしまう。

 もちろんそんなことは口にしない。


『その玩具おもちゃが完成されていれば、少しは戦局も変わったか?』

『そうさせないために俺たちが急行したんだろ? と言いたいところだが、どのみちこの設計図だけでは作れっこなかったな』

『そうか。簡単そうに見えるがなぁ…』

『だからこれは一部だけで、そんな一朝一夕いっちょういっせきで作れる代物では……待て。そういえばお前、魔導機械工学は苦手だったな』


 背中を向けたまま、エリックが肩越しに振り返る。頭髪と同じ色をした太い眉と瞳が、若く雄々しい横顔を際立たせていた。


『何をもってして、これが玩具おもちゃだと?』

『? 何をって……それ、魔導式だろう? お前が言っていたんじゃないか。これからは霊圧式の武器が主流になって、魔導式は玩具おもちゃになるって』


 霊圧式と魔導式。簡単に言えば、弾丸が魔素粒子エーテルでできているか実弾かの違いだ。軍全体への普及はまだだが、特定の部隊にはすでに霊圧式武装が配備されている。そこには対魔賊の最前線であるブレンの部隊も含まれていた。

 威力も高く、費用コスト減少カットできる優れもの。もはや魔導式の出番は軍事でなく、民間の場へとその舞台を移すだろう。

 などとうそぶいていたのはエリックだ。


『さすがに俺でもわかるぞ。それ、装填するのは実弾だろう? お前ふうに言うと時代遅れってやつじゃないのか?』

『……お前はもう少し、魔導技術マギオロジーについての理解を深めるべきだな』

『ずいぶん大きく出たな』


 呆れる素振りに気を悪くすることもなく、ブレンは『善処しよう』と付け加えた。学問とまではいかないが、機械の修理や使い方ぐらいはもう少し学ぶべきかもしれない。


『最近は、教わることのほうが多くなってしまったしな…』


 主語のぼかしたセリフを無意識に口にすると、常に固い口元が自然とやわらぐ。

 それを見とがめ、エリックは背中を向けた。


『また、お前が拾った東方系人種イースタニアンの娘の話か』


 とげとげしい声色。

 胸に去来するのは、少しばかりの寂寥感せきりょうかん


『……エリック。この任務から帰ったら、俺の家に来ないか? あいつのれてくれる紅茶は絶品だし、菓子作りもうまいんだ。きっとお前の口にも合うと思うし、お前もスズに一度でも会えばわかって――』

『ブレン、俺は何度でも忠告するぞ』


 さえぎるセリフは誘いに対する回答ではなかったが、その冷たく拒絶する雰囲気で理解させられる。

 決して、二人が出会うことはないだろうと。


『くれぐれもになるなよ、俺たちには立場がある。お前は俺とともに、やがてこの北の地を治めなければならないのだから』


 その言葉に、ブレンは黙りこんでしまった。もうだと言えば、エリックは怒るだろう。それが怖いわけではない。

 ただ、親友ともに祝福されないのが、どうしても悲しかった。


『……それで? 玩具おもちゃじゃないなら、こいつにはいったいどんな仕掛けがあるんだ?』


 エリックが座る椅子の背を掴み、背後からのぞきこむ。やや強引だったが、相手もスズの話題を続けたくなかったのか、先ほどとは打って変わって軽い調子で乗ってきた。


『それがわかれば、俺はレッドヘルム家の歴史の中で唯一の学者としてこの名を刻むだろうさ』

『学者まで兼任できるほど優秀なのはきっと、後にも先にもお前だけだろうな。長いレッドヘルム家の歴史の中でも』

『……お前はときどき、俺を買い被りすぎだ』

『常にそばにいるからこその正当な評価だ。お前は根拠のないことは言わない』

『別に俺は、これが玩具おもちゃじゃないと言い切ったつもりはないんだが?』

『けど、引っ掛かっている。だろ?』


 ニヤリと見下ろせば、悩ましげな吐息がもれる。あまり不確実なことは口にしたくないらしい。しかし、ブレンも引かなかった。純粋に興味が湧いたのだ。

 の天才、エイル・ガードナー博士が作り出そうとしている秘密兵器――――超魔導投射砲エーテレールガン。その設計図の一部が魔賊に盗まれるというこんな機会でもなければ、その名をうかがうことすらできなかっただろう。好奇心は猫をも殺すが、猫に好奇心は付き物。

 少しワクワクしながら待っていると、思案にふけっていたエリックが静かに口を開く。


……なんだろうな』

『逆?』

『お前の言うだ。パッと見ただけだが、これは………』


 慎重に言葉を選ぶエリックへ『どういうことだ?』と問いかけると、彼はモニターの画面を切り替えた。

 大きく表示されたのは、先ほども見ていた設計図。


『実弾を発射する機構自体はおそらく、これでほとんどだ』

『……ん? だが、撃鉄ハンマーも撃針も何もないぞ?』

『たぶん、らない。弾丸にも、薬莢やっきょうなどは不要なのだろう』

『バカな。じゃあどうやって飛ばすんだ?』

銃身バレルを見ろ。ライフリングが施されていないだろう?』


 ブレンは食い入るように画面を見たが――――なるほど。飛ばした弾丸の安定を図る螺旋状の浅い溝ライフリングは、これでは彫れない。縦に割った銃身バレルの内面図それぞれに文字列ルーンラインがびっしりと彫られていて、どこにも隙間などなかった。


『これは……二つの文字列ルーンラインが、挟みこむ形で…?』

『弾丸の線路だな。これで加速させて射出するつもりらしい』


 確かに。よく見れば引き金は、その二つの文字列ルーンラインにつながっているようだった。もしかしたらそこに魔素粒子エーテルを流しこみ、文字列ルーンラインの霊極性で放出させるのだろう。

 しかし、これでは霊圧式の銃の原理だ。


『なんだ、魔導式じゃなかったのか。ごちゃごちゃした装置がなかったから俺はてっきり……ん? でもお前、さっき……』


 実弾を発射する機構。確か、そう言ったはずだ。


『あぁ、これは霊圧式じゃない』

『どういうことだ? 霊極性だけで、実弾を引っ張る……文字列ルーンラインは物質に干渉できないのでは?』

『あぁ』


 短く言い切るエリック。その後に何か続くと思ったが、何もなし。ブレンはいぶかしみ、画面から遠ざかるように背筋を伸ばした。

 仕事も忘れて思索に没頭しているらしい赤い後頭部へ、話題を振った身ながら思わずため息。


『じゃあやっぱり、霊圧式――』

『こんなに直線的では魔素粒子エーテルの弾丸に運動エネルギーをもたせられない。それに文字列ルーンラインがその場で循環されるように組みこまれていて、放出先さえ設定されていない。何より、二つの霊極性をこんな狭い空間で近付けるのは危険だ。銃身バレルどころか撃った者すら消滅する』

『――なるほど……』


 さっぱりだったが、つまりはこういうことだろう。

 これに、銃としての機能はない。


『やっぱり玩具おもちゃなんじゃ…?』

『その表現は当たらずとも遠からずだな』

『おい、いちいちもったいつけるな』

『そんなつもりはない。本当にわからないんだ、これがなんなのか。だが、つまりはなんだろうな……』


 どうやら考えがまとまったらしく、エリックはわざわざ椅子ごとこちらへ振り返った。

 そして、再び背後の机へ腰かけて向かい合うと、急に講義が始まった。


『魔法の原理、お前は知っているか?』

『なんだ、やぶから棒に。そんなのわかるわけないだろ』

『やっぱりか。魔導技術マギオロジーの基礎だぞ。なんなら一番最初に習う』

『……昔すぎて忘れたんだろうさ』


 視線を明後日へ向けると同時に、大きなため息。


『まぁいい。俺もあまりに荒唐無稽こうとうむけいで真面目に考えたことなどなかったしな。じゃあ、かいつまんで説明するぞ。そうだな……ちょうど銃の話だし、お前にもなじみがあるかな』


 そう言って、エリックは親指を立てた。


『これが魔素粒子エーテル


 次に、人差し指をこちらへ向ける。


『そしてこれが、霊極性』


 そのほかの指は畳み、銃をかたどる手の形に。

 ブレンはふざけて両手を上げたが、それを無視してエリックは続けた。


『これが魔力だ。どちらが欠けてもダメで、常に魔素粒子エーテルを流動体として導いている状態。そして魔導技術マギオロジーとは、この魔力を使って物質に作用し……』


 キョロキョロと辺りを見回す赤頭。そしてお目当てのものを見つけるとすぐに手を伸ばし、再び手を銃の形へ。

 そこに加わったのは、輪ゴム。


『外界へと、影響を与える』


 パシュンと放たれた輪ゴムがブレンの顔へ。ちょっと痛い。

 眉をひそめながら輪ゴムを拾う。


『おい、わざわざ当てる必要あったか?』

『簡単に言えば、これが魔導式だな。では、霊圧式とはなんだと思う?』

『人の話を聞け』


 同じように輪ゴムを飛ばすもあっさりとよけられ、ブレンは顔を渋くさせながら自分の手を見下ろした。親指と人差し指を立てた、銃の形。魔力として成り立っているという状態。

 輪ゴムという弾丸を飛ばすのが魔導式で、霊圧式が魔素粒子エーテルの弾丸を放つのであれば。


『……指先から、魔素粒子エーテルを放つ、のか…?』


 自信のなさに言葉尻が消えるも、エリックはこちらへ人差し指の銃口を向けながら言った。


『そのとおり』


 バンッ、と撃つ物まね。

 胸を押さえて倒れてやるほどのサービス精神は持ち合わせていなかったが、相手もそれはわかっている様子で目線を外した。


霊圧式これ魔導技術マギオロジーと称するのかという議論もあったが、魔力をエネルギーへ変換することには違いないからな。今のところ、兵器としてしか運用はできないが』

『なるほどな……確かに、魔法みたいだ』


 人差し指から光の弾丸を放つ。どうすればそんなことができるのか、見当もつかない。どこかに落ちないながらも、ブレンは感心した。

 しかし、エリックが手の銃を下ろさぬまま言う。


『違う。これは魔法じゃない』

『? 違うのか? まぁ、似たようなもの——』

『いや、んだ。魔法はここから放たれるものでも……そもそも、銃のように発射されるものでもない』

『——じゃあいったい、どこからお出ましあそばすんだ?』


 回りくどい言い方に飽き飽きしたブレンが、慇懃無礼いんぎんぶれいに尋ねる。

 すると、手の銃の形が変化した。


『出てくるんじゃない。んだ』


 中指が真横へ伸ばされ、銃とは呼べない妙な形に。


『いわゆる、ってやつだな』


 魔素粒子エーテルの親指を真上に。霊極性を表した人差し指の銃口をこちらへ。そして、謎の中指は真横。三つの方向に立てられた指。

 ブレンは眉をひそめた。


『さっぱり意味がわからんぞ。その中指が魔法なんだとして、どこに向かって撃ってるんだ?』


 手で作ったひさしを顔に当てながら、遠くを見るふり。中指が差す真横へ顔を向ける。

 それに対する苦い声。


『物分かりの悪いやつだ。放たれるものではないと言っているだろ』

『だったらもうちょっとわかりやすく説明しろ』

『十分わかりやすくしたつもりだが……ここから先はもっと複雑だぞ?』


 軽い脅し文句に肩をすくめるも、そのまま黙って腕を組む。無言の催促、続きを聞く体勢だ。

 しかし、エリックは初めて言葉に詰まった。


『実は俺も、いまいち意味がわかっていないんだが……これは、だそうだ』

『道?』


 形を崩さぬ手。その立てた中指が、トントンと叩かれる。


『実際、これに方向はない。時間も、そして次元すらも越える。魔力が正しく流れると、このとやらが現れるそうだ。もちろん目には見えないらしい』

『見えない、か……だが、そう言うからにはどこかにつながっているんだろう?』

『ほう、お前にしては鋭いな』

『あまりバカにするなよ、と言いたいところだが……その次元がどうのという話はお手上げだ』

『安心しろ、そこは俺もだ』


 互いに浮かべる苦笑い。友との頭の出来の差に打ちひしがれかけていたが、どうやらそうでもないらしい。

 などとホッとしたのも束の間。


『……ブレン、正義とはなんだと思う?』


 いきなりの超難問。表情を改めたエリックの、まるで哲学者のような問い。

 ブレンは返答にきゅうした。


『そんなもの……あれだ。人それぞれってやつなんじゃないか?』

『そうだな。悪を滅ぼす、弱きを助ける、己の信念を貫く。さまざまな正義があるだろう。では、質問を変えよう。正義は存在すると思うか?』


 いきなりなんなんだ。ブレンはいぶかしげにエリックを見つめたが、その雰囲気は至極真剣だった。

 だからこちらも、真剣に答える。


『存在する。たとえば俺たちの仕事は、正義と呼ばれる行いのはずなのだから』

『異論はないが、では俺たちは正義なのか?』

『少なくとも、俺はそうだと信じている』

『それではただの願望だな』


 小馬鹿にする言い草。思わずムキになりかけるも、先回り。


『俺も同意見だ、ブレン』


 そして、エリックはさらに言葉を重ねた。


『しかしな、魔法ならばそれができる』

『視認? おいおい、まさか正義とやらに形があるとでも言うつもりじゃないだろうな?』

『そうだ。正義の真の姿……つまり、。それを召喚することこそ、魔法なんだ』


 なるほど、と納得したのは彼の軽い脅し文句。ここから先はもっと複雑という、まさにそのとおりの展開に目を白黒させていると、エリックが『ちょっとお題が難しかったか』と己の失策を悔やむようにその赤い太眉をひそめた。


『ならば、火ならどうだ? 魔法っぽいし、それならイメージしやすいだろう?』


 子どもにどう説明したものか。そんな悩みを抱える大人のような素振りが気に食わなかったが、素直にイメージしてみる。

 とっくに崩れていたエリックの手の形を思い出し、自らで再現。親指を立て、人差し指を前方へ。そして中指を真横に。

 この中指が、魔法。。火をどこかから呼び出すのか。


『……なるほど、なんとなくわかった。そのを通って、火が召喚されるわけだ』

『それも、ただの火じゃない。だ』


 そう言ったエリックをややにらみつける。わかったと言ったばかりなのに台無しだ。


『お前、わざと俺にわからないように言ってないか?』

『だから最初に言っただろ、俺もよくわかっていないと。けど、どうもそういうことらしい。そのを通ってやってくるのは、すべてとやらだそうだ』

『じゃあつまり、普通の火ではないのか?』

『むしろそっちが普通の、本当の火で、なのさ』

『? 火は……火、だろ?』

『俺もそう思うが……火にかぎらず、どうやらこの世界の目に見えるものすべてが偽物らしいぞ』


 胡乱うろんげに彼が辺りを見回す。自分で言っておきながら、まるで信じていない様子だ。


『またさらには、目に見えないものこそが真実である。そしてでつながる先とは、そのすべての真実が住む場所である、と。しかし、召喚してもこちらの次元ではその姿形は反映されず、人の集合的、普遍的無意識によって改竄かいざん・修正され、時には事象として召喚されることもあるそうだ』

『お前それ、ちゃんと意味わかって言ってるか?』

『だから何度も微妙だと言っているだろ。かいつまんで口にするとだな……人は都合のいいようにしか見ないってことだ。その結果、火の魔法なんかはだけって話だそうだ』

『それじゃあ、実際は燃えないっていうのか? 手品にも劣るぞ、そんなもの』

『それはだな……あー、確か、人の認識が及ぼす影響範囲が、高次元の物体を召喚することによるひずみで……? ええい、とにかく燃える! あとはもう知らん! たまには自分で調べろ!』


 珍しく激しい感情をあらわにして『俺は講師じゃないんだ!』と叫ぶ未来の主君あるじ。機嫌を損ねたらしい。ブレンは肩をすくめた。

 そして何事もなかったかのように仕事へ戻り、再び椅子ごとこちらへ向いた背中を見ながら、ふと眉をひそめた。そういえば、話が宙ぶらりんのままだ。


『おいエリック』

『質問はもうやめろ。学んでこなかったお前の自業自得だ』

『そう言うな、これが最後だ。それで結局、その超魔導投射砲エーテレールガンとはなんなんだ? つまり、魔法を撃とうしているのか?』


 話の流れを鑑みて問いただすも、エリックはこちらを見向きもせず、邪険に手を振った。


『正確には再現かもな。魔導技術マギオロジー極致きょくち、その一端……あ、そうか』

『? なんだ?』


 急に呆けながらも、立ち上がるエリック。その手にはフロッピーディスクが握られていた。仕事は無事に完了したらしい。そのまま彼は浮足立つように、先ほどと同じく指の銃口を突きつけてきた。

 ただし今度の銃口は、


『つまり、こういうことか』

『……いや、どういうことだ?』

『魔法回帰派ではないエイル・ガードナーが魔法の再現を目指すのは、どうも違和感があったんだが……なるほど、が生ずる際のエネルギーを利用しようと…。しかしこれなら、魔法を再現するほうがよっぽど簡単なんじゃ…?』

『おい、エリック』

『ん? あぁ、すまんすまん』


 いら立たしげに呼んでも、おざなりな返事。どうやら説明する気はないらしい。


『まぁ、特に気にしなくてもいい。発想は面白いが、いかに天才といえども……』


 こともなげに言って、彼は腰に差していた鍵杖キーロッドをモニターへ向けた。


所詮しょせんは、夢物語さ』



――バキャッ!



 杖先から放たれた光がモニターを砕き、割れた画面の破片がキラキラと、スローモーションにこぼれ落ちる。

 そのいくつもの欠片かけらに映る妙に若い己自身を、ブレンはただジッと見つめていた。


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