第82話:異世界帰還

 俺はエルズミア伯爵トマスから全てを聞き出していた。

 質問の仕方を微妙に変えて、何度も異世界召喚や異世界帰還、異世界往復についての質問を繰り返して全てを白状させたと思う。

 それでも何か隠している事があるかもしれないと思うから、殺したい気持ちを抑えて幽閉している。


 俺がトマスに不安と恐怖を感じていたのは正しかった。

 トマスは異世界召喚だけでなく、異世界帰還や異世界往復についても、徹底的に研究していて、非生物での実験には成功していたのだ。

 俺は自分のために時間稼ぎをしているようで、敵に時間を与えてしまっていた。

 もう少し状況が違っていたら、とんでもない事になっていた。


 サザーランド王国は最初に異世界召喚を研究し始めた時から、俺と同じように、異世界から召喚したモノが自分たちの手に余るモノだった場合を想定していたのだ。

 トマスはとにかく召喚さえ成功させられえばいいという考えだったが、国王たちが強制送還の術を開発しなければ召喚をさせないと言ったので、召喚が成功してからも数年間強制送還の魔術を研究していたらしい。


 1度異世界召喚に成功して、自分たちの手で操れる勇者ならば、何度も勇者召喚を行って、無敵の勇者軍団を設立する気でいたらしい。

 だが、その計画を阻むモノが2つ現れた。

 1つは猜疑心が強く奴隷化や支配化することができない剣の勇者の存在。

 もう1つが異世界召喚した勇者には2乗の体力と魔力が与えられる事だった。


 剣の勇者に関しては、最悪殺してしまうという手があった。

 3人の勇者と騎士団に魔術士団を総動員すれば不可能でなかった。

 それ以上にアルパーソン国王たちを魅了したのが、自分たちにも2乗の効果が付与されるかもしれないという夢だった。


 異世界と自分たちの世界を往復する事ができれば、もしかしたら異世界特典が自分たちにも付与されるかもしれないのだ。

 異世界召喚したモノを強制送還する事には成功している。

 問題は異世界に送ったモノをこちらに戻す場合に、異世界で十分な魔力と術者を確保できるかどうかだった。


 はっきり言えるのは、普通の人間にはそんな事は不可能だという事だった。

 考えられる方法は2つあった。

 1つは膨大な魔力を持つ勇者を活用する方法で、勇者と一緒に異世界に行って、異世界で勇者が異世界転移の魔術を展開する事だった。

 だがこれにも大きな問題が別にあった。

 そもそも向うの世界、こちらから見ての異世界に魔力があるかどうかだった。


 その心配があったから、結局はもう1つの方法が主に研究されていた。

 もう1つの方法は、最初から往復させるだけの魔術を開発する事だった。

 むこう、こちらから見て異世界に行って滞在することなく即座に戻す魔術なら、向こうで魔術を展開させる事も魔力を必要とする事もない。

 だから異世界往復の研究がトマスによって行われていた。

 そして無生物の小さな石や材木では成功していた。


「では行ってくる。

 万が一戻ってこなければい、事前に約束していた通りにしてくれ。

 後は任せたぞ、ダルべルド」


「ああ、任せろモンドラゴン」


 いよいよ自分自身で異世界転移魔術を試す。

 非生物実験は1トンの重量物でも全て成功している。

 絆を結んだタカやワシ、デザートウルフを往復させる事にも成功した。

 行くだけなら地球に魔力という存在がなくて戻れなくなるかもしれないが、最初から行って戻る術式を発動しているなら必ず成功するはずだ。

 最後の保険もダルべルドに頼んでいるから絶対に大丈夫だ。


「パーフェクトテレポートテラワールド」

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悪い勇者召喚に巻き込まれて殺されかけましたが、女将軍と属国王女に助けられたので、復讐がてら手助けする事にしました 克全 @dokatu

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