第73話:後始末
「えええと、思い当たることがないのだが、何のことかな」
本当になにを言われているのか全く分からず、見栄を張らずに聞いてみた。
「モンドラゴン様が創り出された島の所有権をどうされるのですか。
この国の王都に匹敵する島が20個もあるのですよ。
王位を宣言されても誰も何も言わないくらいの領地を所有されているのです。
しかもその島には、人間を近寄らせない獰猛な鳥と虫がいるのですよ。
モンドラゴン様が放置されたら、砂漠を旅する人が襲われてしまいます」
そう言われてようやく自分のやった事に思いいたった。
確かにあんなものを放置して行ったら大変なことになる。
少なくともスタンフォード王国はサザーランド王国方面に行けなくなる。
でも砂漠樹が今の領地から巨大城砦のある半島方面に地続きになるから、半島方面には簡単に行けるようになるし、領地も数百倍になるから大丈夫だと思う。
「島の所有権は放棄するから大丈夫だ、
この国の領地として接収してくれればいい。
危険な鳥や虫に関しては、支配と命令を解除して元の住処に戻す。
しばらくは水をたたえた豊かな領地だが、俺がいなくなればいずれ水もなくなる。
いつかは砂に埋もれてなくなってしまうだろう。
だからずっと利用する事は考えずにいて欲しい」
エリザベス王女の質問に関してはそう答えた。
それに加えて地下用水路の影響で砂漠樹の土地が増える事も話した。
これで全ての後始末が終わるかと思ったのだが、そうはいかなかった。
「地下用水路の事も砂漠樹の土地の事も感謝しかありませんが、そこもモンドラゴン様の領地になります。
我が国に譲渡してくださるのはありがたいですが、重い責任も一緒です。
それに、もしモンドラゴン様が元の世界が嫌になって、この世界に戻られた時に争いになるのは避けたいのです。
本当にこの世界に戻ってこられないと言い切れるのですか」
エリザベス王女にそう言われると、思い当たる事があった。
基本俺はとても怠惰で苦しい事から逃げたい性格をしている。
その性格を祖母から叩き込まれた不完全な良心で抑えているだけだ。
英雄の力を手に入れて、自由に日本とこの世界を行き来できるようになったら、まず間違いなく嫌な事があったらこの世界に戻ってくるだろう。
その時、俺はゆずった領地に執着しないでいられるだろうか。
不完全な良心があるとはいえ、英雄の力を手に入れた俺が、良心を保ち続けられるかどうか、正直自信がなくなってきた。
これは、もっと色々と考えておかなければいけない。
俺の性格なら、片道で日本に戻れるだけの不安な状態では、そんな魔術を使ったりはしない事だけは断言できる。
「よく言ってくださいました、エリザベス王女殿下。
国民のいない王国として王位を宣言しましょう。
定期的に元の世界とこの世界を行き来できるようにします。
新たに生えてくる砂漠樹の土地に関しては、色々と話し合いましょう」
「話し合う必要などありません。
新たに生える砂漠樹の土地はモンドラゴン国王陛下の領地です。
私たちが欲しいのはモンドラゴン国王陛下の守護だけです。
モンドラゴン国王陛下に守護さえ得られれば、恨み重なるサザーランド王国に復讐することができるのですから」
受けた屈辱は忘れないという事ですか、エリザベス王女。
確かに、サザーランド王国のせいで死ぬことになった国民も数多くいるだろう。
やったほうは厚顔無恥になって忘れていても、やられた方は忘れない。
俺も言動には気をつけよう。
それにしても、娘に任せずに自分で交渉しろよ、国王。
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