第74話:反攻
俺はエリザベス王女と細部まで話し合った。
とは言っても、王族として専門教育を受けたエリザベス王女と庶民の俺では、政治に関する知識に雲泥の差がある。
特に国家間の条約締結に関してのだまし合いに関しては、俺は無知すぎる。
普通ならとてつもなく不利な条件を、不利と知らない間に結ばされてしまう所なのだが、圧倒的な戦闘力がそれを抑止してくれる。
俺を本気で怒らせてしまって、条約を無視して攻撃されたら、スタンフォード王国など簡単に滅んでしまう事を、エリザベス王女はもちろん王族全てが知っている。
だからモンドラゴン王国とスタンフォード王国は対等の軍事同盟を結ぶ事ができたのだが、なぜか全軍の指揮は引き続き俺が執る事になった。
しかも交代で指揮を執るべき副全軍指揮官のエリザベス王女が、常に俺と同じ時間に作戦室にいるのだ。
「ではサザーランド王国に索敵の鳥を送る」
「「「「「はっ」」」」」
鷹匠団員が即答してくれる。
この国には俺が与えた莫大な回復薬と快復薬がある。
それをがぶ飲みすれば、普通なら考えられなあいくらい遠方に愛鳥を放てる。
しかも困難な状態で術を使えば使うほど、鷹匠レベルも基礎レベルも高くなる。
全員が、ハードワークで倒れそうになるのを栄養ドリンクでがぶ飲みして踏みとどまる、ブラック企業の社員のような状態だった。
まあ、俺には無限の魔力があるから、莫大な数の愛鳥を放てるけどね。
だが、それだけの事をした分、手に入る情報も多かった。
スタンフォード王国に軍事同盟の申し込みを蹴られ、今までの行いを大陸各国に通達され、改めて宣戦布告されたサザーランド王国は滅亡の危機となった。
再び勇者召喚をしても無駄な事は、徹底的にレベル上げしたはずの勇者4人が、全く歯が立たずに半殺しにされた事でも明らかだった。
そこでサザーランド王国はなりふり構わず媚態外交を始めた。
今まで事あるごとに国境線で紛争を起こして領地や利権を奪ったり、莫大な賠償金を請求したりして、侵略の意図を隠さなかったサザーランド王国が、平身低頭の態度で軍事同盟や和平条約を持ちかけたのだ。
だが俺たちは、今までの経過やこれからの計画を、モンドラゴン王国とスタンフォード王国の連名で大陸各国に鷲鷹伝令で伝えている。
当然各国は今までの恨み辛みもあり、軍事同盟や和平条約に応じなかった。
それどころか、俺たちの反攻を利用してサザーランド王国に侵攻して、領地を分割併合しようとしていた。
そのための使者がサザーランド王国と国境を接している国の間で行き来していた。
全ての決着を急がなければいけない状態だった。
正直に言えば、サザーランド王国の権力者や不良勇者たちを、他人が始末してくれるのならそれが一番楽なのだ。
すでに血で汚れた俺の手だが、できればこれ以上血で汚したくはない。
自分で恨みを晴らしたい気持ちは皆無ではなく、多少迷う気持ちはあるが、他人がやってくれれば身体も気も楽だという想いもある。
だが、大陸を巻き込んだ侵略戦争になれば、多くの民が死傷することになる。
サザーランド王国の民が、いや人という生き物が罪のない生き物だとは思わない。
ほとんどの人間が罪を犯しながら生きていると思う。
でも、だからといって、殺されたり奴隷にされたりするのを見逃せるかと言われれば、不完全な良心が見逃させてくれない。
だから即座に不良勇者とサザーランド王国首脳部を皆殺しにして、モンドラゴン王国とスタンフォード王国で併合するつもりだったのだが……
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