第71話:軍事同盟
サザーランド王国首脳部は決して馬鹿ではない。
恥知らずの腐れ外道ではあるが、自他の戦力を正確に計算できる。
だからこそ、これまで散々圧政を敷いてきた属国に対して、自ら戦争を仕掛けた相手に対して、手のひらを返して対等の軍事同盟を申し込んで来れるのだ。
だが、こちらがそれに付き合い必要などない。
スタンフォード王国が本当に強くなっていればだが。
「モンドラゴン侯爵殿。
いや、モンドラゴン様。
どうか私たちを救っていただきたい。
これからも今まで通り力を貸していただきたいのです」
国王陛下が深々と頭を下げて俺に頼んでいる。
全ての王族と大半の重臣が同じように最敬礼をしているが、以前にも俺に敵意を向けていた奴は、頭を下げながら敵意を隠している。
本人は隠しているつもりでも、底が浅いので簡単に敵意を見抜くことができる。
こそくにも、陰で俺の対する悪意ある噂を流していたのも知っている。
ただ最悪の状況になってこの国を見捨てる時のために、不完全な良心が痛まないように、放置して好きにさせていたのだ。
「王家としては、サザーランド王国からの身勝手な軍事同盟は拒否したい。
勇者たちを撃退したのが我が国の実力なら迷うことなく拒否していた。
だが勇者たちの攻撃を退けたのはモンドラゴン様のお力だ。
サザーランド王国の提案を蹴った後でモンドラゴン様に見捨てられたら、我が国は滅び民は皆殺しにされるか奴隷にされてしまいます。
望まれるのなら王位を譲る事も厭いません。
どうか我が国を、民を護っていただきたい」
国王陛下はそう言うともう1度深々と頭を下げてきた。
だがそうは言われても俺には俺の都合がある。
この国に、いや、この世界にいつまでもいたいとは思わないのだ。
戻れるものなら元の世界、日本に戻りたい。
この世界なら一国の王になる事も、いや、世界制覇する事も可能だろう。
だがそんな事をしたら、多くの責任も背負うことになる。
民の喜びも哀しみも俺の言葉1つ、視線の動かし方だけで変わってしまう。
一挙手一投足に気をつけて生きる事など俺にはできない。
そもそも重い責任に耐えられるほど俺の心は強くない。
不完全な良心が痛んで円形脱毛症になるのは目に見えている。
だが、不良勇者を野放しにする事は同じ世界の人間として無責任だろう。
俺をこの世界に誘拐した張本人を見逃す気もない。
キッチリと報復しなけれが怒りが収まらない。
それに、禁忌とされていた召喚魔術を知るには敵を捕らえる必要がある。
そして召喚魔術を知らなければ、異世界に戻る魔術も開発できないだろう。
「残念ですがずっとこの国の味方をする事はできません」
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