第67話:養蜂術

 斃された鳥を囮にする事でデザートワームを誘い出す術は順調だった。

 ある程度の鳥が殺された時点で鷹匠団員の愛鳥を後方に下げ、殺された鳥を使ってデザートワームを誘い出せば、殺される鳥の数も最低限ですむ。

 だが、最低限度とはいえ殺される鳥の数はとても多い。

 不完全とはいえ良心があるので、その痛みを感じなくなる事はない。

 自分が食べるために殺すのならまだ良心を誤魔化せるのだが。


 だがその作戦も長くは続かなかった。

 まあ、30日も時間稼ぎができれば十分かもしれないが、もっと稼ぎたかった。

 不良勇者たちは鎧を軽い物に変えてきた。

 それだけで不良勇者が作戦を変えてきたのが直ぐに分かった。

 しかたなく次の迎撃作戦に移行する事にした。


「今日も後方に下がってくれ」


 俺はいつも通り鷹匠団員を王都方面の移動させた。

 新たな作戦を見られたくなかったからだ。

 今度の作戦はハチを使った迎撃だ。

 ミツバチは温存して、毒性が強い肉食のスズメバチを投入した。

 鎧の装備が軽く薄くなった勇者なら、鎧のすき間から襲わせることができる。

 相手は小鳥を想定した鎧を装備している。

 小鳥より小さなスズメバチなら攻撃も可能だ。


「ギャアアアアア、いててててて、クソ、下がるぞ」


 剣の勇者館野伊織が他の3人に言葉をかけるが、他の3人は全く反応しない。

 だから次々とスズメバチに刺されてダメージを受けている。

 かわいそうだが、奴隷となった彼らには自由に撤退する事ができないのだ。

 どれほど身体が傷つき痛みを感じても、事前に撤退を許された所まで体力や魔力が減るまでは、戦い続けるしかないのだろう。


「ちっ、バカが」


 剣の勇者が3人をバカにするようにつぶやく。

 最初から悪事を重ねるためだけに集まっていたのだろうが、薄情な事だ。

 3人に対してなんの情愛もないのだろう。

 眼つきからも表情からも侮蔑以外の感情は読み取れない。

 俺もこいつらには恨みしかないが、それでも多少は哀れには思うのに。


「「「ヒール」」」


 猛毒を受けた事で予想以上に早く体力が低下したのだろう。

 回復魔術を使って体力を元に戻そうとしている。

 だが既に受けた毒の影響でどんどん体力が減ってしまう。

 まともな思考力があれば、快復魔術を使って毒を中和するだろう。

 だが彼らにそんな命令は与えられていない。

 このままいけば直接俺の手を汚さずに3人を殺せるかもしれない。


「ちっ、まだこいつらには利用価値があるんだよ。

 スーパーデトックス、スーパーデトックス、スーパーデトックス」


 剣の勇者が俺の操る鳥たちをにらみながら叫び、快復魔術を使う。

 残念だがそう簡単に勇者は殺せないようだ。

 それにしても、まだ利用価値があるか。

 血も涙もなく猜疑心が強い剣の勇者にとっての利用価値とはね。

 哀れなのは3人に不良勇者だな。

 まあ、自業自得だから、助ける気など全くないけどね。

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