第65話:王家の秘伝
「モンドラゴン伯爵には随分と気をつかわせてしまった。
これまでの軍功もあわせて、この通りお礼を言わせてもらう」
国王陛下が結構深く頭を下げてくれた。
俺が命を助けた王族や重臣の大半は納得してくれているようだ。
だが数人の重臣が不愉快そうな顔をしている。
要注意人物として見張っておいた方がよさそうだ。
「いえ、当然の事でございます。
エリザベス王女殿下と義理とはいえ親子の契りを結ぶなど、恐れ多くてとてもお受けできない事でございます」
こんな緊張する場所からは直ぐに逃げ出したい。
今使っている敬語が正しいかどうかも分からない。
状況や戦況を理解できない思い込みの激しい独善的なバカが、無礼だと襲いかかってきたら撃退することになる。
そうなればこの国を捨てて出て行くことになるのだが、多少は仲良くなった人もいるから、彼らを見殺しにするようで不完全な良心が痛むことだろう。
「そう言ってくれると余も気持ちが楽になる。
とはいえ、これまで受けた恩が砂漠よりも広く大きい事は否定できない。
どうであろう、余と義兄弟の契りを結ばないか」
国王陛下も返事に困る事を口にしてくれる。
口調と表情から『政略だけど受けてくれる』と言っているのが読み取れる。
義理を絡めて俺をこの国に縛る気なのだろう。
だが同時に俺を怒らすわけにはいかないから、口調と表情で裏のある事を明かす。
王族の娘と結婚しないかと言わないのも、俺を怒らせないようにだろう。
「そのような恐れ多い提案をお受けするわけにはいきません。
王家秘伝の伝承は今後の戦いのために知る必要がありますが、そのために王家と貴族の垣根を超えるわけにはいきません。
王家の秘伝を教えていただくために、形だけの王族扱いで大丈夫でございます」
俺がそう口にすると、全ての王族が残念そうな表情をした。
国王も残念そうな表情をしていたが、ほくそ笑む重臣もわずかにいた。
その連中をエリザベス王女が不愉快そうな目で見ている。
表情は一切変えていないが、目の色で何を考えているか分かる。
押しつぶされそうな責任を背負う王女から見れば、国の防衛を考えずに自分の虚栄心だけを優先するクズは、殺したいくらい腹が立つだろう。
「そうか、モンドラゴン伯爵はとても謙虚だな。
だが王家に伝わる伝承を教えるだけで今までの恩を返せるとは思えぬ。
モンドラゴン伯爵にはこれからも敵を防いでもらわねばならぬ。
よってモンドラゴン筆頭軍務大臣を筆頭大臣に任命し、侯爵に陞爵させる」
断りたいけど、これまで断ると国王の顔を潰すことになるよな。
でも受けたら受けたで心の狭い奴が嫉妬するんだよな。
直接ケンカを売ってきたりせずに、陰で悪い噂を流すだろうな。
その時、王女殿下がどんな対応をするのか予測できるだけにおっくうだな。
それでも、ここは受けるしかないんだよな。
「謹んでお受けさせていただきます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます