第63話:海は広いな大きいな

「すごい、すごい、すごい、想像していたよりもずっと大きくて広いです!」


 エリザベス王女が興奮してはしゃいでいる。

 そう、普段の王女の言動からは考えられない態度を取っている。

 姫騎士団がとまどうくらいのはしゃぎようで、俺も言葉をかけれない。

 見て見ないフリをしてデザートウルフたちを撫でて時間を潰す。

 そう、時間を潰さなければいけないくらい長時間はしゃいでいるのだ。


「くぅうううううん」


 40日間俺と濃密な時間を過ごせたので、デザートウルフたちの甘え方が、不良勇者たちの戦い方を観戦した時よりもだいぶおとなしい。

 エリザベス王女だけを海に連れてくるのなら、俺が運べば1時間程度だ。

 だが、エリザベス王女と俺を2人だけにできない事は誰にでもわかる。

 初老で国の救世主と言っても、俺は男なのだから。


 そこで護衛として姫騎士団がついてくることになる。

 砂漠に強いラクダの騎乗していても、砂漠の端から端まで移動するのだ。

 それも比較的他国に近いサザーランド王国側から反対側にまで横断するのだ。

 俺が補給品の食料と水を全て用意するとはいえ、40日くらいかかるのはしかたがない事だった。


「王女殿下、そろそろ国に戻りませんと、もう40日も国を留守にしています。

 今直ぐ戻っても国に帰り着くのは33日後になります」


 イザベラが言い難そうに、でも意を決してエリザベス王女に話しかけた。

 イザベラの気持ちも分からない訳ではない。

 半日もの間、波とたわむれてキャッキャウフフされたら当然の諫言だ。

 だが、長年の夢が叶った王女がそう簡単に帰るはずがない。

 

「何を言っているのですか、イザベラ。

 貴女も愛鷲と愛狼の目で戦場を確認しているのでしょ。

 私も愛鷲と愛狼の目で戦場を確認しているのですよ。

 全く何の心配もないではありませんか」


 エリザベス王女が反論するのも当然だと思う。

 多分だが、もう2度と王女が海に来る事はない。

 不良勇者たちが鳥を相手に苦戦するのもしばらくの間だけだと思う。

 少なくとも槍の勇者と格闘の勇者は徐々に鳥に対応していた。

 空中を動き回る小鳥を、範囲魔術を使うことなく斃せるようになってきていた。


「それはそうなのですが、もう十分遊ばれたと思うので……」


 イザベラも俺と同じ考えをしているのだろう。

 だから苦言は呈したが、反論されたらそれ以上は何も言えないのだ。


「エリザベス王女殿下、ようやく夢が叶って海に来れたので。

 砂浜で遊ぶだけでなく、海にも出てみませんか。

 私が船を創り出しますので、それに乗って大海原に出て見ましょう。

 ただし、海にも危険な魔物がいますから、船縁には近寄らないでください」


「まあ、まあ、まあ、まあ、船を創ってくださるのですか。

 私、船に乗って冒険の旅に出るのが幼い頃の夢でしたの。

 ぜひお願いしますわ」

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