第62話:観戦

「くぅうううううん、くぅうううううん、くぅうううううん、くぅうううううん」


 デザートウルフたちが思いっきり甘えてくる。

 しばらくかまってあげられる時間が少なかったせいだと思う。

 頭だけでなく身体全体をすり寄せて命一杯愛情を伝えようとする。

 だが狼にしてはとてつもなく巨大なので、普通の人間だと押し倒される。

 まあ、幸いおれは英雄なので、余裕でデザートウルフの愛情を受け入れられる。

 狼まみれになって幸せいっぱいだ。


「おお、よしよしよし、さみしかったのか、よしよしよし」


 周囲の人間たちが向けてくる生暖かい視線など無視だ。

 そんなモノを気にしていたら何もできない。

 そもそも王女に邪魔されなければ俺とデザートウルフたちだけで楽しめたのだ。

 予定を変えさせられた上に、遠慮までしなければいけない理由などない。

 だから王都からサザーランド王国との国境線までは好きにさせてもらった。

 だから砂漠を横断する7日間は有意義な時間になった。


「これなら本当になんの心配もありませんな」


 ゴア伯爵フランセス騎士団長が表情を変えずに淡々と口にする。

 俺たちの前には不良勇者3人と鳥が戦う戦場が広がっている。

 砂漠の民は基本的に目がいいので、不良勇者に気がつかれることなく、遠くから戦場の様子を確かめることができる。


 ただこれは不良勇者たちが操られているからできる事だと思う。

 不良勇者が自由に考えて勇者術を使えていたら、見つけられてしまったと思う。

 だが今の不良勇者は命令されている通りの事しかできない。

 襲ってくる敵を手あたりしだい斃してレベルを上げるだけのロボットだ。

 それが分かっているからこそ安心して観戦を提案できた。


「エリアランスサンド」

「エリアアーチサンド」

「エリアナックルサンド」


 不良勇者たちが最小の範囲攻撃魔術で鳥たちを斃している。

 鳥と最初に戦った次の日から戦法を変えている。

 最小の魔力で最大の効果を得る事を目的をしている。

 俺が鳥を使った迎撃に変えた事に即座に対応してきたのだ。

 サザーランド王国首脳部がバカではない証拠だ。


 だが、同時に、酷薄なのもよく分かった。

 勇者は基礎レベルの2乗の体力と魔力がある。

 鳥程度の攻撃ならほとんど体力を減らされる事はない。

 だから小鳥を一撃で斃せる最小の魔術で迎え討つ。

 一撃で斃せない大型の鳥には、数度攻撃されても構わないという方法だ。


 だが、体力を減らされないだけで痛くない訳ではない。

 カラス級やカワウ級の攻撃でも身体をついばまれ肉を削られる痛みは感じるのだ。

 だがサザーランド王国首脳部は不良勇者たちが感じる痛みなど全く考えていない。

 完全に使い捨ての道具扱いをしている。

 心からスキルを見られることなくあの国を逃げだせてよかったと思う。

 ああ、そうだ、せっかく現場に来ているのだから不良勇者たちのステータスも確認しておかないと、正しい作戦が立てられないな。

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