第61話:私を海に連れて行って

「私を海に連れて行ってください。

 今の話しを聞く限り、勇者であろうと120日は鳥陣を突破できないのでしょ。

 いえ、初日の状況なら1年や2年は大丈夫でしょ。

 だったら10日や20日私が国を離れても大丈夫でしょう。

 昔からとても海に憧れていたのです。

 お願いします、どうか私を海に連れて行ってください」


 エリザベス王女が頬を赤く染め目をウルウルさせれ頼んでくる。

 初老の人間にこの攻撃はとても破壊力がある。

 思わずこの場で『連れて行って差し上げます』と言いそうになる。

 だが、周囲の人間の断ってくれという懇願の表情も視線に入っている。

 彼女たち姫騎士団の気持ちも痛いほどわかる。

 エリザベス王女にはわずかな危険も冒させたくないとう気持ちが。


「1つだけ条件をださせていただいていいですか、エリザベス王女殿下」


「私の叶えられる条件なら全て受け入れます」


「では、勇者と鳥が戦う現場に直接来てください。

 私の言葉をうのみにせず、姫騎士団の皆さんと確かめてください。

 その上で、本当に大丈夫だと姫騎士団の方々も賛成してくださるのなら、私が海までご案内させていただきます」


 俺がそこまで言った事で、ようやく自分が前のめりになっている事に気がついたようで、周りの姫騎士団の表情も確かめることができたようだ。

 姫騎士団も、俺に断ってくれという表情をしていたのを知られたのが恥ずかしかったのか、バツの悪い表情を浮かべていた。

 これくらいのイタズラをさせてもらっても罰は当たらない。

 間にはさまれた俺は、とても嫌な思いをしたのだから。


「……分かりました、直接現場に行って確認させていただきます。

 貴女たちも直接見たら安心できますよね」


「「「「「はい、エリザベス王女殿下」」」」」


 俺は準備に数日かかると思っていた。

 実質的にこの国を背負っているエリザベス王女殿下が最前線に行くのだ。

 説得して許可をもらわなければいけない相手も多い。

 何よりエリザベス王女殿下を護る護衛部隊の数が膨大になる。

 彼らを編成をするだけでも大仕事だと思っていた。


「では今から行きましょうか」


 だが、俺の考えは根本的に間違っていた。

 エリザベス王女殿下もこの国の王族も、いや、騎士団や各部隊も、とても国民を大切にしていたのだ。

 最悪の状況を想定して、常に野営を伴う遠征の準備をしていた。

 敵を追撃する事も、民を逃がすために撤退する事も考えていた。

 だから半日で最前線に向かう準備ができた。


「分かりました、護衛部隊に出陣をご命じください、エリザベス王女殿下」


 俺は予定よりも早く最前線に行くことになった。

 鳥たちに与えた全ての人間を襲えという命令を取り消して、3人の勇者だけを襲えという命令に変更して。


「出陣」


「「「「「おう」」」」」

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