第60話:塩湖

 俺は出かけた翌日、いや、その日の夜中に戻ってきた。

 運んでくるモノの安全をそれほど気にしなくてもよかったからだ。

 まあ、莫大な魔力を使うことになったが、無限の魔力があるから大丈夫。

 運ぶモノの周りにエアバリアを張り巡らせているので、音速で移動しても中に全く悪影響を与えなかった。

 

 エリザベス王女への挨拶は後回しにした。

 深夜だから挨拶する方が失礼だし、何より急ぐのだ。

 10個の鳥砦を創り出した時以上に大きな島を砂漠上に10個作った。

 真ん中に深く大きな塩の湖を確保した。

 そこに運んできた莫大な海水を優しく置いた。

 注ぐのではなく、海水の塊をふんわりを置くようにした。

 

 海水の中にはたくさんの魚が泳いでいる

 数万匹のイワシがベイト・ボールを作っている。

 魔力で魚たちが死なない程度にプランクトンを増殖させる。

 赤潮にならなように細心の注意を払ってプランクトンとイワシの数を調節して、イワシやプランクトンを食べる大中の魚も生きて行けるようにする。


 ただちょっとかわいそうだが、地球でも存在した事のないような大型のクジラやサメを、塩湖で飼うことはできなかった。

 シロナガスクジラ以上の巨体、それこそシロナガスクジラを群れごと丸呑みできるようなクジラやサメを飼うような、広大な塩湖は必要ない。

 だからクジラやサメは、殺して魔法袋に非常用食料として確保することにした。


「エリザベス王女殿下、予定より早く食料を確保することができました。

 海に住むデザートワーム以上に大きなクジラやサメを獲ることができました。

 これで鳥や狼の食料はもちろん、デザートワームを誘いだすエサにも困ることはありません」


「海ですって!?

 モンドラゴン伯爵はまた海に行ったのですか。

 しかも書物でしか読んだ事のないクジラやサメを獲ったと言うのですね?!

 ……ワガママを言っていいですか、モンドラゴン伯爵」


 今まで一度も驚く表情を見せた事がないエリザベス王女が驚いている。

 いや、たんに驚いているだけではなく、とても興奮しているのが分かる。

 上に立つ者として喜怒哀楽を顔に表さないようにしている王女がだ。

 これはちょっとヤバイかもしれない。

 とんでもないワガママを言われるかもしれない。


 できれば聞かずにこの場を出て行きたい。

 だけど、ずっと自分を抑えて国民のために生きてきた王女の願いだ。

 聞いて実現したやりたいという気持ちもある。

 どうか俺にとっては大したことでありませんように。


「何なりとお命じください、エリザベス王女殿下。

 俺のできる事なら何でもやらせていただきます」

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