第53話:勇者部隊

 ゴア男爵フランセス団長がスタンフォード王国に亡命してきてから3カ月。

 ついにサザーランド王国が攻め込んできた。

 まあ、攻め込んできたと言ってもたったの3人だ。

 サザーランド王国の支配下に置かれている槍の勇者平内勇夢、弓の勇者原田寛之、格闘の勇者山崎元気が凄まじい速さで国境を突破してきた。


 普通なら不意を打たれるところだが、こちらはちゃんと対策をとってある。

 鷹匠部隊の偵察トリが常に上空から監視している。

 猟犬部隊が砂漠にサンドワームやサンドスパイダーを放っている。

 その監視の目をかいくぐって、スタンフォード王国の王都にまで奇襲する事は不可能なのだ。


「攻撃開始」


「「「「「おう」」」」」


 砂漠の魔物が一斉に3人の勇者に襲いかかる。

 今回は本気で勇者を殺す覚悟をしているから、毒を持つ魔物にも襲わせる。

 4人のうち3人の勇者を殺せる絶好の機会なのだ。

 疑い深く慎重な剣の勇者を殺せないのは痛いが、そこは何とかなる気がする。

 3人の勇者を確実に殺してから、サザーランド王国から逃げ出すであろう剣の勇者を追いかけて確実に殺す。


 3人の勇者が黙々と魔物を殺していく。

 前回騒がしいくらいワームを気持ち悪がっていた槍の勇者平内勇夢が、ワームの返り血を受けても表情1つ変えずに魔物を殺し続けている。

 このまったく人間味のない殺戮に寒気を覚えてしまう。

 完全に意思を奪われた操り人形となっているのだろう。


「エリアサンドランスアタック」


 ずっと黙っていた槍の勇者がやっと口を開き、呪文を唱えた。

 周囲を魔物に取り囲まれて、範囲魔術を使うしかなかったのだろう。

 しかし、敵もバカではないな。

 それどころか、かなり研究熱心で的確に戦術を考えている。

 前回は空気を利用した魔術だったのが、今回は砂を利用した魔術になっている。

 そのお陰で、砂漠の中、足の下に潜む魔物も殺すことができている。


「エリアサンドナックルアタック」


 この世界は何でもありなのか、それとも剣や槍、拳は発射台に過ぎないのか。

 格闘の勇者が呪文を唱えると、拳から周囲に魔術が発動される。

 自分の背中や砂漠の中にいる魔物にまで攻撃が当たる。

 何とか魔物で包囲網を構築していたのだが、一気に全滅させられてしまった。

 これも命令された行動なのだろうか。

 それとも本能的に動いているのだろか。


 まあ、自我を奪われ命令通りに動いているとはいえ、生存本能は残っているはずだから、危機になったら命令を逸脱する可能性はある。

 それとも、死ぬまで戦えと命令されたら、本当に死ぬまで戦うのだろうか。

 そんな命令を下す奴は絶対に許せない。

 槍の勇者を殺すついでに、サザーランド王国首脳部を皆殺しにした方がいいか?

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