第3章

第50話:ゴア男爵フランセス

 槍の勇者を追い払ってから3カ月の月日が経っていた。

 スタンフォード王国とサザーランド王国は冷戦状態だった。

 表立っての戦争は始まっていないのだが、経済封鎖はされている。

 スタンフォード王国が必要としている品物に莫大な関税がかけられている。

 表向き輸出禁止にはしていないが、実質的な輸出禁止だ。

 サザーランド王国が輸出禁止や宣戦布告をしないのは、スタンフォード王国から砂漠樹の実を貢がせ続けて、食糧不足におちいらせるためだ。


 だがスタンフォード王国側にはなんの苦しみもないのが実情だ。

 穀物、炭水化物が食べられないのは少し辛いが、サザーランド王国の属国にさせられてから、庶民にとって炭水化物は高嶺の花だった。

 庶民が普段食べていたのは、砂漠で獲れる魔物だった。

 比較的簡単に狩れる小型のサンドワームやサンドスパイダーが主食だった。

 だから俺が狩ったサンドワームやサンドスパイダーを配給すれば問題ないのだ。


「食糧不足の所に押しかけてしまってすまない。

 もうこれ以上サザーランド王国に留まるのは危険だったんだ」


 サザーランド王国を逃げてきたゴア男爵フランセスがそう言って謝っている。

 彼女もこちらが食糧難に苦しんでいると思っていたようだ。

 どうやらうまくサザーランド王国首脳部をだませているようだ。

 フランセスやアンが2000人の配下や配下家族を引き連れて逃げてこられたのは、彼女達の武勇が優れているのは当然だが、こちらの食糧不足を早めようという、サザーランド王国首脳部の作戦もあるのかもしれない。


「最初に誤解を解かせていただきますわ、フランセス。

 わたくしたちは飢えていたりしませんわよ。

 確かに好きな物を好きなだけ食べられるわけではありませんが、魔物でいいのならお腹一杯食べていただけますわ」


「ふぃへぇ?

 超巨大なワームが暴れ回っていて、狩りも満足にできないのではないのか?」


「ふっふふふふ、確かにデザートワームが現れたら狩りどころではありませんわ。

 ですがデザートワームが現れるのはよほど多くの血を流した時だけですわ。

 それに、万が一現れたとしても、反対側で狩りをすればいいのですわ」


 エリザベス王女が凄く楽しそうに話している。

 こんなに楽しそうなエリザベス王女を見るのは初めてだ。

 よほどフランセスを信じているのか、馬が合うのだろう。

 イザベラとソフィア、いや、エリザベス王女股肱の臣、姫騎士団の連中が凄く複雑な表情をしているのがおもしろい。


 フランセスに嫉妬を感じて焼餅を焼くのは恥ずかしいと分かっていても、全てを投げうって仕えている彼女たちが、悔しく思うのは当然の事だ。

 その点はエリザベス王女もフランセスもよく分かっているだろうから、適当な所で厳しい事を口にするはずだ。


「最初から密かに盟約を結んでいたのです、遠慮する事はありません。

 ですが、無条件に2000人全員を信じる事はできません。

 家族や恋人、友人知人を人質に取られている者がいるかもしれません。

 密かにサザーランド王国と連絡を取ろうとした者は、問答無用で殺しますから、覚悟していてください」


「ああ、分かっている。

 勝手に王都を出ようとした者は警告なしで殺してくれていい」

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