第49話:デザートワーム

 槍の勇者と魔物軍の戦いが始まって20分ほどたっただろうか。

 魔物に包囲された槍の勇者はもう魔力の節約ができなくなっている。

 小型の弱いサンドスパイダーやサンドワームが相手でも、魔力が6も必要なエアランススネークを連発している。

 1024もあった魔力が今では507にまで減ってしまっている。

 もっとも魔物を斃した分だけ基礎レベルが上がってしまい、最大魔力や最大体力が1089にまで増えてしまっている。


「ギャアアアアア、うでが、俺の様の腕が。

 ヒール、ヒール、ヒール、ヒール」


 ついに奴が現れた。

 猟犬団長ですら飼いならせない最凶の魔物。

 超大型サンドワームが発見されてから見つかった、超大型サンドワームも超える信じられない巨大なワーム、デザートワームが現れたのだ。

 デザートワームが槍の勇者はひと飲みにしようとしていたら、避ける間もなく飲み込まれていただろうが、それではこちらが困るのだ。

 だからわざと攻撃を手控えさせていた支配下の大型ワームに腕を食い千切らせた。


「なおらねぇ、ヒールが役に立たねぇじゃねか、なんだよこりゃあ。

 くそ、くそ、ヒール、ヒール、ヒール、ひぃいいいいいる」


 レベル6の勇者の力では、食い千切られた腕を再生するヒールは使えないようだ。

 少なくとも槍の勇者は使えないのが分かった。

 魔力や体力の自然回復も、1分では10も20も回復しないのが分かる。

 今見ている範囲では使用される魔力を必要とする技が多過ぎて、回復しているのか回復していないのかも分からない。


「ギャアアアアア、たすけてくれ、俺が悪かった。

 もういやだ、こんなばけもののあいてなんかできねぇえよぉお」


 サンドワームに腕を食い千切られて逃げ出したお陰で、デザートワームが砂漠から飛び出す場所から逃れる事ができた槍の勇者だが、さすがに気力がつきたようだ。

 まあ、俺だっていきなりあんな化け物を見たら小便をチビってしまう。

 猟犬団長に事前に聞いたいたから覚悟ができていたが、そうでなければ槍の勇者と同じように恥も外聞もなく逃げ出していたかもしれない。


 槍の勇者が後ろも振りかえずに逃げて行く。

 その後を俺や鷹匠団員と同調したトリたちが後をつけて行く。

 ちゃんと生きて逃げ戻ってもらわなければ困る。

 砂漠がどれだけ恐ろしいか、デザートワームが絶対に勝てない相手だという事を、サザーランド王国の権力者たちに報告してもらわなければいけないのだ。


 デザートワームが恐ろしい勢いで槍の勇者を追いかけていく。

 槍の勇者が空を飛べるのなら逃げきれるだろうが、腕を失った状態で走っていては、とても逃げきれそうにない。

 しかたがないから、支配下に置いているサンドワームに注意を引かせる。

 槍の勇者よりも、槍の勇者が斃した魔物の方が、量が多くて食べ応えがあると教えてやるのだ。

 

 俺の思惑通り、サンドワームが先に食べ出したら、デザートワームが急いで戻ってきて、サンドワームも一緒に飲み込もうとする。

 ワームには平気で共喰いするのは分かっていたが、見ていて気持ちのいいモノではないので、急いで支配下にいる魔物を逃がす。

 さあ、後は槍の勇者の回復状態をしっかりと確認させてもらおうか。

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