第45話:詰問使

「陛下には謀叛の疑いがある。

 今から城中の検分を行う。

 逆らう者や邪魔する者がいれば、謀叛の疑いが真実であると断じて開戦する。

 これはサザーランド王国の正式な決定である」


 この世界の礼儀作法は全く知らないが、大使の言動が無礼なのは俺でも分かる。

 周囲にいるスタンフォード王国の人達が、怒りを押し殺す表情を見ても明らかだ。

 彼らがガマンしているのは、これが挑発だと分かっているからだ。

 わずかでも逆らう態度を取ったら、国境付近にいる敵が攻め込んでくる。

 俺にさえわかる事だから、国の重職者には直ぐに分かる事だろう。

 問題は誇りを捨てて頭を下げ地に伏せていれば、サザーランド王国が見逃してくれるのかどうかだが、どう考えても見逃してくれないな。。


「検分の上で、先年に申告した国庫よりも多くの蓄えがあったら、それは宗主国に対して謀叛の意思があるという事だ。

 即座に開戦となる」


 これはダメだ、サザーランド王国は完全にやる気だ。

 スタンフォード王国内に裏切者がいるとは思いたくないが、サザーランド王国に全て知られているのは間違いない。

 独立のために戦争に備えて準備している事を知られてしまっている。

 その原因が俺が目立ってしまったせいなら、責任を取らなければいけない。


「さあ、案内していただきましょうか、国王陛下」


 下痢大使が愉悦の表情を浮かべて国王陛下に詰め寄る。

 国王陛下が周りの者たちに動くなと目で指示を送られる。

 いい判断だと思う。

 このままだとブチ切れた猟犬団長が下痢大使を斬り殺しかねない。

 いや、スタンフォード王国の人間全員がいつキレてもおかしくない。

 国王陛下が俺にも視線を向けてくる。


 俺は大丈夫だという想いを込めて国王陛下に視線を返した。

 ここまで来てしまったら腹をくくるしかない。

 もう開戦は避けられない。

 だが数日でもいいから開戦を引き延ばしたい。

 一振りでも多く、一領でも多くの剣や鎧を完成させてから開戦を迎えたい。


「では案内させていただこう」


 堂々とした態度で応じる国王陛下が意外だったのだろう。

 下痢大使が不意を突かれたような表情をしている。

 品性下劣で強欲な下痢大使の事だから、この機会の恥をかいた時の復讐を果たすだけでなく、私腹も肥やすつもりだったのだろうが、そうはいかないのだよ。

 見逃すと言って、本国には噓の報告をすると言って、金や女を要求するつもりだったのだろうが、そんな事は絶対にさせない。


「なんだこれは、やはり謀叛を起こすつもりだったな。

 もう言い逃れはできなぞ、さっそく本国に戻って報告させてもらおう。

 それとも、何か理由があるのかな、国王陛下。

 理由しだいでは、口添えしてやってもいいのだぞ、国王」


 露骨で品のない賄賂の要求だな。

 しかも宝物庫の財宝だけでなく、エリザベス王女にまで視線を送っている。

 黙っていて欲しければ身体をよこせと言っている。

 こいつは死ぬべきだな。

 だが、普通には殺さない、ゲスに相応しい死に方をしてもらおうか。

 それもこちらの役に立った後でだ。

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