第43話:伯爵

 俺は男爵から伯爵に陞爵された。

 多くの王族を助けた事や、莫大な寄付をしたお礼だと思う。

 だがこの国は人口1万人ほどの小国だ。

 しかも領土は決して広くない砂漠樹の林だけしかない。

 当然領地などもらえないし、俸給も使用人が100人雇える程度だ。

 それでも、伯爵という地位は他国に行った時に多少は役に立つ。

 いや、役に立つとかではなく、精一杯にお礼の気持ちがうれしい。


「それで、モンドラゴン伯爵は猟師団を設立されるのですか」


 俺が助けた王族に1人で大臣でもある男が好意的な表情で聞いてくる。


「はい、自警団員の戦闘力も底上げしておく方がいいと思うのです。

 各種ポーションもありますし、周囲を警戒してくれるデザートウルフもいます。

 魔物の体力をある程度削っておいて、人間に止めを刺させたら、基礎レベルも戦闘レベルも上がると思うのです」


 俺がそう言うと、会議に集まっていた大臣たちや団長たちが難しい顔をする。

 どうやらこの国の倫理観には合わない手法のようだ。

 この倫理観が異世界全体のものならば、無理矢理やろうとは思わない。

 だが、他の国がやっていて、この国だけがやっていないのだと問題がある。

 軍や国民の戦闘力が他国よりも圧倒的に劣っているという事だからから。


「確かに効率的ではあるが、何か、こう、悪い事をしている気がするのだ」


 騎士団長が申し訳なさそうに反論してきた。

 確かに騎士道からは大きく外れる手法だと思う。

 

「俺は勇者召喚に巻き込まれてこの世界に来たので、こちらの倫理観を知りません。

 ですから絶対にやるとは言いません。

 ですが、確認だけさせてください。

 俺の言った方法を、サザーランド王国が使っていないと言い切れますか。

 効率的な方法で強くなったサザーランド王国軍が、弱いままの民を皆殺しにしたり、奴隷にして人間の尊厳を奪ったりした時に、倫理観を護る方が大切だと、殺され踏みにじられた民に堂々と言えるのですか」


「……」


 かなり厳しい事を口にしたと思う。

 だが、煙たがられようと嫌われようと言わなければいけないと思う。

 俺だけ戦えば民を助けられるのなら、たぶんだけど、覚悟を決めて戦える。

 今回も今は俺が戦わない方法を考えているけれど、誰から殺されそうになったら、ブチ切れて手加減なしに暴れ回ると思う。

 だができる事なら、俺が表にでる事無くこの国が勝つのが一番なのだ。


「モンドラゴン伯爵の言う通りだと思います。

 王家や国の重職を担うものが一番考えなければいけないのは、民の命です。

 己の名誉のために、民を見殺しにするような事は許されません。

 騎士道や王侯貴族の名誉のために、民が見殺しにされる事は、絶対にあってはならない事です。

 私が全責任を負います。

 モンドラゴン伯爵の考えた方法で猟師団を運営してください」


 エリザベス王女が決断した。

 誰一人、国王ですら何も言わなかった。

 


 

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