第39話:砂漠樹の道
「貴男は本当に勇者召喚に巻き込まれただけの被害者ですか。
実は貴男こそ本当の勇者なのではありませんか。
そうでなければこのような事ができるとは思えません」
エリザベス王女が言葉こそ穏やかだが鋭い目をして問い詰めてくる。
だがそれも俺がしでかした事を考えれば仕方のない事だ。
俺はとんでもない大失敗をやってしまったのだ。
タンスモークを食べたいという食欲のためだけに、地下用水路を巨大城砦に引いただけでなく、そこからさらに延長してスタンフォード王国にまで届かせた。
猟犬団長が口にした程度ではすまない、楽々と征服軍に砂漠を横断させられる道を創りだしてしまったのだ。
「私は単に特殊な土魔術や土木魔術授かっただけです。
勇者のように人殺しのスキルを手に入れたわけではありません。
だからこそ、こうしてこの国のお世話になっているのです」
大嘘をつくのは心が痛むが、できればもうこれ以上人殺しはしたくない。
戦争になれば巻き込まれてしまう人も数多くでてしまう。
俺自身はもう人を殺してしまっている。
今更善人のフリをする気もなければ、フリをする事が許されるとも思わない。
だけど、俺1人が殺し合いするのならまだ覚悟を決める事もできるが、人を巻き込むのだけは避けたいのだ。
「エリザベス王女殿下がやれと言われるのなら、一旦つないだ地下用水路を途切れさせることも可能です。
ただもう二度と失敗したくないので、確かめさせて頂いているのです。
この世界に召喚された私には、どうするのがこの国のためなのかが分かりません。
どうか教えてください。
地下用水路はこのままにしておく方がいいのですか、それとも断裂させて水を送らないようにする方がこの国のためなのですかあ」
もうこれ以上俺が勝手に何かすることは許されない。
俺には、ずっと水に困っていたこの国が、戦争を覚悟してでも水を優先するのか、それとも戦争を恐れて水を諦めるのか、判断する事はできない。
いや、この国の人間でも考えが違うだろう。
人それぞれ大切にするモノが違うからだ。
だったら俺は誰の意見を優先すべきか、そんな事は最初から決まっている。
他の誰でもない、フランセス騎士団長と協力して俺をこの国に匿ってくれた、エリザベス王女の考えを優先するのが人の道だろう。
俺は昔から騎士道や武士道に憧れてきた。
それが正しい事なのか間違っている事なのか、そんな事は分からない。
だが義理人情を大切にしていた祖母や、皇室アルバムを正座して観ていた大叔父の姿は、この歳になっても忘れられない。
「繋いでいてください、モンドラゴン男爵
この国の民にとって、水に勝るモノはありません。
砂漠樹が増えて広がるのかもしれないのなら、命を賭ける価値があります」
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