第35話:地下用水路

 巨大城砦を完成させて、溜池も創り出した事で、俺は神となった。

 表向きは神の使徒なのだが、村人や元奴隷たちが俺に接する態度を見ていると、どう考えても人間に対するモノではなく、神に仕える態度だった。

 最初は悪い気がしなかったのだが、余りにも敬われると、品行方正な行動しかできなくなってしまうのだ。

 それでは正直肩が凝ってしかたがなく、1人になりたいと心から思ってしまう。

 なにより今更女性に夜の相手をしろとは、不完全な良心が言わせてくれない。


「遠くの大河から水を道を創るのに出かける。

 留守は任せたぞ、村長」


「お任せください、使徒様」


 だから俺は仕事を理由に巨大城砦を出て自由を楽しむようにした。

 水の道を創るためだと言えば、村長も村人も何も言わない。

 それに、実際一分一秒でも早く地下用水路を完成させたい。

 地下用水路さえ完成させたら、全ての責任を村長に押し付けて、俺はスタンフォード王国に戻ることができる。


 少々ずけずけと心の中にまで入り込んで来るが、猟犬団員たちのざっくばらんな性格がとてもなつかしい。

 元々そういう地方で生まれ育った俺は、堅苦しくよそよそしい都会の生活よりは、少しわずらわしくても人情味のある生活の方が好きだ。

 まあ、スタンフォード王国に戻ったら、遠慮会釈のない人間は嫌いだと言って、この村の生活を懐かしむとは思う。

 なぜなら俺はそう言う身勝手な性格だからだ。


 高く飛ぶのは高所恐怖症で無理なので、地上から1メートルほどの高さを高速で飛ぶというか駆けると言うか、とにかく目にも止まらぬ速さで移動した。

 適度にパーフェクトイーグルアイを使って、大河の場所や雪解け水が集まっていそうな場所を確認して、直接その場所に行って確かめた。

 一番大切にした事は、俺が利用する事で被害を受ける者がいない事だ。

 俺のせいで干ばつなど起こしたら一発で胃に穴が開く。

 一生悪夢にうなされて、二度と平穏な睡眠ができなくなる。


「パーフェクトカナート」


 今までは異世界にある魔術を基準に、俺の持つ知識や経験に想像力を付与した独自の魔術を使っていたが、今回はそうはいかなかった。

 完全に俺が一から創り出した魔術を開発した。

 だから基本が英語だった呪文が、アラビア語の混ざった呪文になってしまった。


 今度こそ俺が生み出した新魔術だと誇る気にもならない。

 なぜなら使われる魔力が膨大過ぎて、この世界の人間どころか召喚された勇者でも使いこなせない魔術だからだ。

 だが、この魔術を生み出した事で自己満足を得ることはできた。


「うぉおおおおお、水だ、水がわき出したぞ」

「使徒様だ、使徒様が地下用水路を創り出してくださったぞ」

「これでもう二度と水に困る事はない」

「使徒様万歳」

「「「「「使徒様万歳」」」」」

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