第34話:飲料用兼農業用溜池

 村長と村人たちが口を開けてポカンとしている。

 目の前で起こっている事が信じられないのだろう。

 やった俺自身が信じられないのだから当然だ。

 だがこれは夢でも幻でもない現実だ。

 これが異世界の摂理だと言うのなら、飲み込んでやっていくしかない。

 召喚特典というのは、この世界のバランスを崩す禁じ手だと思う。

 禁忌魔術として使用を禁止にされていた理由がよく分かる。


「おおおおお、貴男様は本当に神の使徒なのですか?

 いえ、申し訳ありません。

 これほどの御業を使われる方が神の使徒でない訳がありませんでした。

 これまでの無礼、どうかお許しください。

 お怒りが収まらないと申されるのでしたら、この命を差し上げます。

 ですから、どうか、どうか、どうかこの村をお救いください」


 村長は俺が思っていたよりもポンコツなのだろうか。

 土下座しそうな勢いで謝り倒している。

 いや、これは俺がこの世界の常識を知らないからなのかもしれない。

 魔術がある世界だから、神もいるのかもしれない。

 その神は、結構ワガママで人間に罰を下しているのかもしれれない。

 そうだとすると、俺も神に罰を下されるかもしれないな。

 それはその時に考えるとして、今は村長だ。


「慌てるな、村長。

 我は村長に頼んでいるのだ。

 村長はその頼みの代償を求めた。

 それは当然の事だから謝る事はないし、罰を与える気もない。

 我が要求するのは、完全に代償を与えた時に、村長に約束を守ってもらう事だ。

 分かったか、村長」


「はい、理解させていただきました、使徒様。

 この命に代えましても、解放奴隷の村を統治し、護らせていただきます」


 どうやら少しは落ち着いてくれたようだ。


「では、次に一時的に利用する水を溜める池を創る。

 それに、農業用の水を溜める池も創ろう。

 パーフェクトレザヴワー」


 俺はそう言うと5つの山の山頂に大きな窪みを創り、底と周囲に水が漏らないように粘土質の層をいくつも重ねた。

 固い圧縮した土だけだと、小さな地震が起きた程度でもひび割れてしまい、そこから水が漏れてしまうかもしれない。

 専門家ではないから、色々と間違いや知らない事がある。

 その辺んは想像力とあり余る魔力でごり押しして創りだす。


 最初は遠い山頂なので誰にも俺が何をしているのか分からない。

 だが山頂から徐々に山麓にまで溜池を創る数を増やしていくと、村人にも見えてくるが、ただの穴ぼこしかないと、何の役に立つのか分からない。

 それを感動させ感謝にまでつなげるのは水を創り出してからだ。

 貯水池に満々と清水が溜められたら、もう俺を疑う者も逆らう者もいなくなる。


「パーフェクトウォーター」


 俺は全ての溜池に水を満たした。


「おおおおお、信じられない、なんという事だ」

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