第31話:神罰

 それでも、最後の自制心が働いていたのだと思う。

 無意識のうちに、サンドスパイダー製のフルアーマーを装備していた。

 フルフェイスのヘルメットをかぶり、顔を見られないようにしていた。

 まあ、でも、この姿を見ている人間は多い。

 巨大な狼を連れた傭兵希望者を見た者も多い。

 それでもまともに顔をさらすよりはマシだったろう。


「神の名をかたり、信徒という名で奴隷を手に入れようとした背神者。

 真の神の使いである我が神罰を加えてくれる。

 四肢を引き千切られて神の怒りを知るがいい。

 罪無き者よ、神罰を見ないように目をつむれ。

 ウィンドトルネード」


 俺が怒りに任せて呪文を唱えると、鋭い刃と化した空気が嵐を起こしていた。

 金に飽かせてあつらえたとしか思えない、神職風の衣装を着た男が切り刻まれる。

 切り刻まれたのは1人2人ではない。

 同じような衣装を着た人間で、俺の視線に入っている人間全員だ。

 それ以外にも力ずくや剣で脅して奴隷を集めていた連中も切り刻まれる。

 だがその程度ですませる気はない。


「サンドホークアイ」


 俺は習い覚えた天空から地上を見渡す魔術を発動した。

 本当なら心を通わせたオオワシの視線を借りて地上を見渡す偵察の技だ。

 だが今俺には心を通わせたオオワシはいない。

 その代わり、その場にいた夜行性の鳥の目を強制的に借りたのだ。

 申し訳ない事をしているがだが、怒りに我を忘れているので無意識でやっていた。

 

 相手を正確に区別しているわけではない。

 領主の兵士や奴隷商人の私兵なのか、奴隷解放軍を名乗るブタ聖職者の配下や別の奴隷商人の私兵なのか、それともここの領主と敵対している貴族の兵士なのか。

 誰であろうと俺には全然関係ない。

 奴隷たちを乱暴に扱う者は誰であろうと切り刻んで殺す。

 同じ人間を奴隷扱いするような奴にかける温情などない。


「我は神が使わした救世主である。

 奴隷を助け、同じ人間を奴隷のようにあつかうモノに神罰をくだす。

 特に神の名をかたり神を貶めるモノを絶対に許さない。

 そのような者を見逃しているモノも同罪である。

 例え聖職者や神殿を名乗ろうとも、背神者の入る場所には雷を落とす。

 ゆめゆめ忘れるでない」


 途中から正気に戻ってしまい、恐ろしく恥ずかしくなってしまったが、今さら止める訳にもいかず、最後まで神の使徒を名乗り神罰を下し続けた。

 それは地上にいるブタ聖職者や兵士だけではなく、港や海上にいる船舶もだ。

 この領地は海路で他の港と結ばれていたのだろう。

 ブタ聖職者が奴隷解放軍をかたって集めた多くの艦船が港を封鎖していた。

 だがその艦船にもウインドトルネードを叩きつけて全て沈没させてやった。

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