第30話:奴隷解放軍

「ギャアアアアア、解放軍だ、奴隷解放軍が襲ってきたぞ」

「逃げるな、逃げずに戦え」

「解放せよ、不幸な奴隷を開放するのだ」

「やっちまえ、返り討ちにしてやれ」

「人を奴隷に貶める貴族や商人に神の鉄槌をくだすのだ」

「やめてぇえええ、私は被害者よ、私は奴隷よ」


 城壁の中から怒声と悲鳴が聞こえてくる。

 聞こえてくる内容から想像すると、どうやら奴隷を開放しようとする一派がいる。

 だが、その全てが善人ではなさそうだ。

 それとも、どさくさに紛れて奴隷を襲う者がいるのだろうか。

 どちらにしても、奴隷解放軍と名乗ってはいても、奴隷の事を本当に考えているとは思えない。


「お前達はここでお留守番をしていなさい。

 近づいてくる人間は殺していいからね」


 俺は残していくデザートウルフたちに言い聞かせた。

 人間の中には、いや、多くの人間は卑怯下劣だ。

 悪いと分かっていても、自分の利益になるのなら平気で悪事を働く。

 この街の人間も、領主や奴隷商人が怖いのもあるが、奴隷売買で街が豊かになり、自分たちのそのおこぼれる預かれるから、同じ人間を平気で奴隷扱いする。

 そんな人間が、主が側にいないデザートウルフの子供をどう扱うのかは、直ぐに想像できるから、近づく者を殺す事をためらいはしない。


「いや、いや、いや、やめて、ゆるして」


 軽々と城壁を飛び越えた俺は、奴隷の女性を襲っている兵士と出会った。

 無意識に、反射的に魔力を発動していた。

 術などという高等なモノではない。

 怒りのあまり魔力の塊を放っていただけだ。

 下劣な兵士は心臓を破壊されて即死した。


 いや、襲っていた兵士だけではない。

 ニタニタとその下劣な光景を見ていた7人の兵士も、同時に絶命させた。

 俺の記憶にあるこの街の兵士ではない。

 御大層に奴隷解放軍と名乗っている連中かもしれない。

 それとも俺の記憶にないこの街の兵士なのだろうか。


「キャアアアア、殺さないで、私たちは被害者よ」


「奴隷商人に汚された可哀想な者たちに神の慈悲を与える。

 神々に仕えると誓うのなら、敬虔な神の信徒として教会で保護してあげましょう。

 しかし神に仕えるのを拒むと言うのなら、奴隷商人の一味としてこの場で殺しますが、どちらを選びますか」


 一目見てクズだと分かった。

 飢えに苦しむ信者から、神の名をかたってさくしゅする生臭坊主にしか見えない。

 現に剣を突き付けられおどかされている奴隷を、欲望にぎらつく目で見ている。

 俺ははっきり断言する。

 こいつは神の名を使って信徒という名の奴隷を手に入れようとしているだけだ。

 呼び方が違うだけで、奴隷の奪い合いをしているだけだ。

 俺の不完全な良心が悲鳴をあげ、自制心と嫌悪感を上回った。

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