第29話:競売とサクラ

 俺は魔法袋に入ってある普通の食肉を全部売った。

 手ものかからない毛皮つきを望む者にはそのまま売った。

 肉だけを欲しがる者には皮をはいで売った。

 この辺ではとても珍しい毛並みの、サンドフォックスやサンドスネークの毛皮は皮は、俺が思っていた以上の高値で売れた。


 砂漠で狩った獲物でも、売れるモノは全部売った。

 お陰で魔法袋の中に入っていいるモノを少し減らすことができた。

 砂漠を横断した後で、砂漠の魔物は売ることができないかもしれないと考えて、この街に来るまで手当たりしだいに魔物と獣を狩っていたのだ。

 それがほぼ全部売れたのだが、一番かさばる大型のサンドワームは売れなかった。

 結構な額の現金が手に入ったので、市場を回っていたのだが……


「さあ、よく見てくれこの上玉を。

 少々肌は焼けているが、その分健康だ。

 さらってくるまでは牛を飼っていたから、牧場で働かせる事もできる。

 それに顔も美しく長い髪をしているから、夜の相手にさせる事もできる。

 何よりこれまで一度も男に抱かれた事がない。

 俺たちも売り物だからがまんして手出ししなかったんだ。

 それがたったの金貨4枚からだ。

 欲し奴は早くしないと競り落とされちまうぞ」


 全ての衣服をはぎ取られ、恥ずかしそうに足を広げる少女を見た時、俺の自制心は弾け飛びそうになった。

 領主と奴隷商人を皆殺しにしてやりたいと怒りに震えた。

 それを何とかがまんできたのは、目の端に映るデザートウルフたちだった。

 この子たちを争いに巻き込むわけにはいかない。

 人食い狼などと呼ばれる存在にはできないのだ。


「金貨4枚と銀貨1枚だ」


 俺は普通に少女を競り落とすことにした。

 2日間の商売で予定以上の大金を手に入れることができた。

 少女を購入するのに少々使っても何の問題もない。

 穏便に少女を助けるにはこれ以外の方法はない。

 そう思って奴隷の競売に加わる覚悟をした。

 

「金貨4枚と銀貨2枚だ」


 競り合いが始まって直ぐに俺は気がついた。

 この競りにサクラが混じっている事に気がついてしまったのだ。

 奴隷の値段を釣り上げるために、出品者か主催者がサクラを参加させている。

 俺の良心と嫌悪感が争い、嫌悪感が勝ってしまった。


 こんな茶番に付き合う気がなくなってしまった。

 俺はサクラに対抗するのを止めて、普通の買い物に専念することにした。

 哀しそうな顔で俺を見つめる少女に胸が痛んだが、俺は悪人に利用されるのは我慢できない性格なのだ。


「そのサバを全部売ってくれ」


「どうだいダンナ、こっちのアジも美味いぜ」


「それはダメだ、鮮度が悪すぎる。

 鮮度のいい魚なら全部買うが、悪いモノはいらん」


 俺は市場に並んでいる魚を全部買い占める勢いで買い物をした。

 奴隷制度のないスタンフォード王国が一番住み心地がいいと思う。

 今日のように、奴隷が理不尽に虐待される姿を目にすることになったら、俺の自制心が吹き飛んでしまって、世界制覇を始めてしまうかもしれない。

 だがそんな事を始めたら、重い責任で心が潰れることだろう。

 だから見たくないモノを見なくてもすむ国に戻って、美味し魚を食べて過ごす。

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