第28話:奴隷市
「ここがアンタの場所だ。
自分を売り込んでも構わないが、奴隷だと誤解されないようにしろ。
代価の2割が税金として徴収されるからな。
そのつもりで自分を売り込めよ」
親切な市場の人間が色々と教えてくれた。
奴隷市場のことはよく知らないが、安くない場所代を払ったうえに、取引金額の2割も税金に取られるとは思ってもいなかった。
何も知らないので、それが普通なの領主が強欲なのかの判断もできない。
まあ、地球の過去の常識と、異世界の常識が同じだとは限らないし、異世界でも地方にって常識が大きく違うだろう。
「さあ、買った、買った、買った。
朝ここにいる狼が狩ったばかりの新鮮なイノシシとシカだ。
こんな新鮮な肉はめったに手に入らないぞ」
俺の言葉に市場に来ていた多くの人間が反応した。
何と言っても俺の言葉を証明する狼が20頭もいる。
しかも現物のイノシシとシカはとても新鮮だ。
値段も他の人が出品しているヒツジやヤギ、ウサギやオオネズミの値段を参考にしているから、常識外れの金額という訳ではない。
あっという間に並べていたイノシシとシカが全部売れた。
その度に魔法袋から新しいイノシシとシカ、ウサギやオオネズミを出して売った。
客の反応から、ウサギやオオネズミでも売れると判断したから。
その判断は正解だった。
どんな獲物を出しても飛ぶように売れた。
だが一番反応があったのは食肉ではなかった。
「なあ、アンタ、その袋は魔法袋か?
もし魔法袋を売ってくれるのなら相場の5割増しで買うが、売る気はあるのか」
「残念だけどこれは俺専用の魔法袋なんだ。
売ったとしても同じようには物を入れられない」
「なんだい、そうなのかい、アンタも正直だね。
だったらどうだい、その魔法袋を使わせてくれるのなら、アンタを高額で雇わせてもらうが、その気はあるかい」
「それなら俺だけでなくこの子らも一緒になる。
俺の本職は傭兵で狩人だ。
この子たちと協力すれば100騎くらいの騎士団なら壊滅させられるぜ。
だがそれも最終日に声をかけてくれ。
集めに集めた獲物を全部売らなきゃならねえんだ」
俺はそう言ったが、5日間の最終日を待つことなく、2日で普通の食肉は全部売れ、残りの2日間で他の店を見て回ることになった。
だが、この街の主力商品である奴隷を見て回るのはとても胸が痛んだ。
多分だが、奇襲や強襲をされて故郷から力づくで連れてこられたのだろう。
体のあちこちに切り傷やすり傷、時には斬り傷のある奴隷までいた。
よほど全員助け出そうかと迷ってしまった。
だけど、助ける事はできても、責任を持つことはできない。
助けた後で、後は好きにしろと放り出すわけにもいかない。
ここの領主や奴隷商人を皆殺しにして奴隷を開放したとしても、街の住人と奴隷の間で新たな身分差が生まれて争いが起こるのは目に見えている。
だから、見て見ぬふりをすることにした。
俺は、卑怯で根性なしだ。
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