第27話:初めての街
「おい、待て、お前は何者だ。
その巨大な獣はなんだ」
俺は街に入ろうとして、また止められてしまった。
もう正直慣れたと言うか諦めた。
この子たちと一緒に入れないのなら、無理に街の中に入ろうとは思わない。
目的のモノは街の外に買い取り屋を開いて買えばいいと開き直っている。
最後に嘘を並べ立てて入れればラッキーくらいの気分で話してみる。
「俺は獣使いで、この子たちは俺が調教した狼だ。
戦争では一緒に戦うだけでなく立派に伝令もやってくれる。
狩りをやらせれば大抵の獣や魔物は単独で狩ってくれる。
とても優秀なパートナーだ。
この街には傭兵や護衛の仕事を探しに来た。
入れてもらえるのか入れてもらえないのか、どっちだ」
「ほう、それは凄いな。
今この街には護衛の仕事がたくさんある。
だが俺の独断ではお前とその狼を入れていいのかは決められん。
責任者に聞いてみるが、決めるのに1日くらいかかる。
もしそれでもいいと言うのなら、城壁の外で待っていてくれ」
別に待つ事は苦にならい。
むしろ限られた空間しかない城壁内にいる時間はできるだけ短くしたくらいだ。
城壁内では子供たちを自由に遊ばせてあげられなくなる。
だから考えるまでもなく返事をすることができた。
「ああ、それは別にかまわないが、ちょっと気になる事がある。
街の周りが、とても誰かが管理しているとは思えないくらい自然のままだ。
宿屋もなければ飯屋もない。
こんな所で待つとなると、野宿の準備をしなければいけなくなる。
土地の持ち主に許可をもらわずに野営してもいいのだ」
「ああ、それは大丈夫だ。
この周りには魔物がとても多くてな。
普通の人間ではとても暮らせないくらい危険なんだ。
だがアンタは何の危機感も感じていないようだ。
さっきの言葉通り、とても凄腕の傭兵であり狩人でもあるのだろう。
アンタが翌朝無事に表れる事が、ある意味実力を証明することになる」
「分かった、だったらその証明をさせてもらおう。
その代わり、少し離れた場所の仮の寝床を作らせてもらう。
それで構わないな」
「ああ、何の対策もせずに一晩過ごせとは言わんよ。
野営地の設営も傭兵や護衛の立派な役目だからな」
翌日の朝には責任者の許可がおりたようで、街の中に入ることができた。
砂漠を横断して最初の村にたどり着いてから10日が過ぎていた。
その間の旅の冒険はまた別の機会に話ができればと思う。
今回話したかったのは奴隷の話しだ。
大きな商売ができそうなくらい繁栄した街にたどり着くことはできた。
だがそこは俺が思い描いていたような街ではなかった。
俺の不完全な良心がうずいてしまう、主に奴隷を扱っている街だった。
最初の隠れ里の村長が言っていた商売のできる街と、今回たどり着いた街が同じだとはとても思えない。
わずかな会話しかしていないが、あの村長はとても誠実な人間だと感じた。
その村長が奴隷取引をしている街を教えるとは思えない。
それとも、あの村長が知らない間に街の方針が変わったのか。
領主が代替わりする事で、領内の様子が一変する可能性もあるだろう。
この街の領主が俺の不完全な良心を必要以上に刺激しなければいいのだが。
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