第23話:母性愛

「今日はとても楽しかったです。

 それにこんな凄いお土産までいただいてしまって、申し訳ないです」


 俺が渡した小型のサンドワームに恐縮しているようだ。

 一緒に子供たちを遊ばせていたら、無粋なサンドワームが襲ってきたから、軽く皆殺しにしてやったのだ。

 ある意味一緒に狩りをしたのと同じだから、半分に分けるつもりだった。


 だがイザベラが「私は何もしていない」と言って、どうしても受け取ってくれなかったので、お土産と言って無理矢理1匹渡したのだ。

 それも、子供たちへのお土産だと言ってようやく受け取ってもらえた。

 もちろん子供というのはサンドウルフの事だ。

 デザートウルフを恐れながらも動く事のできる、とても優秀な子供たちだ。


「いや、さっきも言ったように一緒に狩りをしたのと同じだから」


「いえ、私もさっき言いましたけど、私もこの子たちも何もしていませんから。

 モンドラゴン男爵が1人で狩った獲物をもらうわけにはいきません。

 なんて、言い争いしたいわけではないのです。

 今日はとても楽しかったと言って終わりたいのです。

 次の非番の日も子供たちを一緒に遊ばせたいのです」


「そうだね、父上には色々教えていただいているし、王女殿下にはこの国に来る時に、陰で色々と手を貸してもらっているからね。

 側近の方々とも仲良くなって、誤解が起きないようにしたい。

 オリビアには間を取り持ってもらいたい」


「分かりました、私にできる事は何でもさせていただきます」


 オリビアはそう言いながら帰って行った。

 お互い田舎芝居をしている事くらい分かっている。

 俺はこの国での居場所を確保するために。

 エリザベス王女は有力な味方を確保するために。

 敵対しない事、いざという時には協力する事を確認するための儀式だ。


 今の俺の力なら、この国に執着する事はない。

 この国が危険になったら1人逃げだせばいい。

 だけどそれでは不完全な良心がうずく。

 以前ならその程度ですんでいた。

 でも今は可愛い子供たちがいる。

 この子たちに苦しい放浪生活をさせたくない。


 それに、この子たちは砂漠で生きていくように進化したのだ。

 俺が暮らしやすいと思った場所が、この子たちにあっているとは限らない。

 万が一環境が会わなくて病気にでもなったら取り返しがつかない。

 できればこのまま砂漠で暮らせるようにしてやりたい。

 本能の従って砂漠を思いっきり駆け回り、獲物を狩る暮らしを続けさせたい。


 でも、つい思ってしまうのだ。

 この子たちに、今まで食べた事のない美味しい物を食べさせてあげたいと。

 牛肉や豚肉、魚や果物を食べさせてあげたいと。

 日本にいた頃から犬や猫に与えてはいけない食品がある事は知っている。

 この子たちが長年暮らしてきた砂漠以外の食物を食べさせることが、とても危険な事だという事は、頭では分かっているのだ。


 分かっているのだが、つい思ってしまう。

 せめて牛乳くらい食べさせてあげてもいいのではないかと。

 いや、これも知らない訳ではない。

 乳も同種のモノでなければ、栄養素が足らなかったり合わなかったりするのは知っているのだが、食べさせてあげたいという誘惑がとても強い。


 順番にやってくるデザートウルフの毛並みをなでながら、誘惑に抵抗するのだが、果たしていつまで耐えきれるだろうか。

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