第22話:もふもふ
「くぅうううん、くぅううううん、くぅううううん」
ベンガルトラよりも少し大きいくらいの猛獣が甘えてくる。
それも、20頭もの猛獣が、代わる代わる甘えてくる。
大きい子は半数で、残りの子はまだ生まれて間のない小さな子ばかりだ。
そんな子狼の毛並みは綿毛のように柔らかくて、なでると凄く気持ちがいい。
動物をもふって恍惚とするような性癖はないのだが、気持ちがいい事は否定できないし、ついつい長くなでてしまっている。
だが気をつけなければいけない事がある。
20頭もいると、もう立派な群れなのだ。
生まれたての子狼がやる、多少のおいたは許されても、ある程度育つと絶対に許されない、群れの序列というものがある。
序列に気をつけながら、甘えてくる子たちをなでてあげる。
他人が見れば異様な光景だが、甘えられている本人は結構うれしい。
「よい、よし、よし、よし、直ぐにご飯と水をあげるからね。
今日はみんなの大好きなサンドワームだよ」
「「「「「うぉん」」」」」
賢いこの子たちは、もう俺の言葉を覚えてくれている。
いや、もしかしたら、召喚特典で俺の言葉が狼語に翻訳されているかもしれない。
まあ、そんな事はどうでもいい。
俺があげるご飯を美味しそうに食べてくれるだけでいい。
わんぱくでもいい、病気することなく元気に育ってくれさえすればいい。
「ウゥウウウウウウ」
かわいい子供たちが警戒の唸り声をあげている。
誰か近寄ってくる者がいるようだ。
街の外、いつ砂漠の魔物が襲って来るか分からない場所に俺の家がある。
今までは王城の一角に部屋を与えられていたし、猟犬団の拠点にも部屋があった。
だがデザートウルフが20頭もいると、街の中に住むわけにはいかなかった。
猟犬団の拠点で暮らす事もできなくなってしまった。
王宮や街の中では人間が怖がってしまう。
猟犬団の拠点ではサンドウルフが怖がってしまって餌も食べれなくなる。
結局、俺と子供たちは街の外で暮らすしかなかった。
まあ、土魔術は限界一杯のレベル10まで上げてあるから、砂を固めて家を作るくらいは簡単な事だった。
だから、ここに来る人間はとても限られている。
「やっていますね、もうそんなに仲がよくなったのですか」
「やあ、オリビアか。
今日は王宮に行かなくてもいいのかい」
その限られた人間の1人が、猟犬団長の長女オリビアだ。
子供の頃から可愛がっているサンドウルフ5頭と一緒に、エリザベス王女を護って宗主国までついていっていた、王女股肱の家臣の1人だ。
「今日は非番なんですよ。
だから久しぶりにこの子たちを思いっきり走らせてやろうと思いまして。
どうですか、一緒に砂漠に行きませんか」
王女股肱の臣らしいな。
万が一俺が王女の敵に回った時の事を考えて、俺の実力を確かめる気だ。
特に新たに絆を結んだデザートウルフの力を確かめたいのだ。
いざという時に戦うのが逃げるのか、デザートウルフの力を知らなければ決められないし、そもそも俺を味方に止める努力をすべきかの判断もできない。
こんな健気な子には力をしてやりたくなる。
「ああ、いいよ、子供たちに思いっきり運動させてあげよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます