第20話:子預け

「俺たち砂漠の民に伝わる伝説に、サンドウルフやデザートウルフが、砂漠で生きる力のない子供を、信頼できる人間に預けるという話がある。

 だがサンドウルフの子供は祖父の代で預かった事があるが、デザートウルフを預かったという確かな話しは伝わっていない。

 しかも一度に20匹、いや、20頭以上なんて信じられない前代未聞の事だ」


 俺にそんな話をされても困る。

 予想できる理由はあるが、とても口にできない内容だ。


「だから今までは単なる伝説なのだと思っていた。

 サンドウルフの事があるから、デザートウルフでもあるのだと、話しを大きくしただけなのだと思っていた。

 だが現実に起こった以上、今後の為に正確に伝えなければいけない。

 今までと違っている事が何なのか、それはモンドラゴン男爵がいる事だ」


 猟犬団長が口にした事は俺の考えと同じだった。

 確かにデザートウルフのボスは俺に子供たちを頼むと目で訴えていた。

 まあ、とても子供とは言えない大人のデザートウルフもいたが、何も言うまい。

 彼らも過酷な砂漠で生きていくのは大変なのだろう。

 安心して預けられる人間がいるのなら、伝説など関係なく、群れの足手まといになる弱い個体を押し付けるだろう。


「さあ、それはどうだろうな。

 ぎりぎりまで一緒に暮らそうとして、ついに限界が来た可能性もあるぞ。

 たまたまタイミングが会っただけなのかもしれないぞ」


 俺は言い逃れをしてみた。


「ふん、自分でも信じていない事を口にするのは恥かしい事だぞ、男爵。

 俺たちも過酷な砂漠で生きてきた民だ。

 自分たちの能力を正確に認められなければ、自分が死ぬだけではすまないんだ。

 家族や仲間まで道ずれに死ぬことになる。

 だから気にせずにはっきり言つてくれ。

 あんたがいたからあいつは子供を預けに来たんだな」


 ここまで言われたらもう誤魔化しようがないな。


「そうだ、子供たちを頼むと目で訴えられた」


「そうか、やはりそうだったか。

 だが水には苦労していたようだが、けっして弱いという訳ではない。

 祖父たちが預けられたサンドウルフの子供も、とても賢く強い子だった。

 だから単に身体が弱い子だとは思えないのだ。

 その点に関しては、猟犬で狩りをする集団には色々な説が伝わっている。

 モンドラゴン男爵も気になっているのではないか」


 いや、別に俺は聞きたいと思っていない。

 だが、俺は気が弱いから、周りの期待を裏切ることができない。

 この世界にはテレビもネットもないから、娯楽が極端に少ない。

 そんな世界では、噂話や昔話がとてもよろこばれる。


 特に話し上手な人が聞かせてくれる作り話は村の大きな楽しみだったりする。

 猟犬団の者たちは、俺が聞きたがることを期待しているのだ。

 俺に求められて、調子に乗った猟犬団長が思いっきりふくらませたおとぎ話を、心から期待しているのだ。


「そうだな、とても気になるな」


 今日は長い夜になりそうだ。

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