第16話:快復魔術

「パーフェクト・デトックス」


 俺が呪文を唱えると、絶命寸前で土気色していた顔色が一気に健康を取り戻した。

 だがこれで終わりではない。

 毒によって消耗していた身体を元通りにしなければいけないのだ。

 魔力を節約しなければいけない術士なら、患者に食事を与えて回復に必要な素材を体の中にため込んでおく必要がある。

 だが俺ならそれを異世界や異次元から調達してできるから、患者に体力が残されていなくても、完全に健康な身体にすることができる。


「パーフェクト・ヒール」


 やせ細っていた骨や筋肉が、みるみる健康だった頃の状態をなっていく。

 肌の状態もよくなり、まるで赤ちゃんのようなプニプニの肌だ。

 細く苦しそうだった寝息も、大きく穏やかなものに変わっている。

 もうこれで次の患者さんの所に行っても大丈夫だとは思うが、念のために脈診で治っている事を確認をしておく。


「次の病人の所に案内してくれ。

 命の危険はある人から順番にだ」


 俺が最初に治療したのは国王陛下だった。

 その次が王妃殿下だ。

 その後は地位に関係なく命の危険が高い人から順の周った。

 本来ならレベル1の回復系魔術から覚えて、徐々に魔術のレベルを高めてからでないと、パーフェクト系の魔術など使えない。


 だが俺には元の世界の知識と想像力がある。

 何より信じられないほどの莫大なMPがある。

 その莫大なMPに相応しい自然回復力がある。

 元々あったその力に加えて、今では体の中に多くの魔力器官を創り出している。

 しかも魔法袋の能力を備えているから、無限に魔力を蓄えられる。

 自然回復量の分だけ、使わない魔力が全て蓄えられているのだ。

 その全てを惜しみなく使って、魔力効率を無視して治療した。


「ヒデオ殿、貴男は私たちの、いや、この国も救世主です。

 私たちにできる事は全てさせていただきます。

 どうか何なりと申しつけ下さい」


 国王陛下が神に対するように俺を敬い、最敬礼をしてくれる。

 王妃以下の助けた王族全てが同じように最敬礼してくれている。

 全ての願いを叶えてくれると言うのなら、男が願うことはただ一つしかない。

 ハーレムを作って酒池肉林の日々を送る事だ。

 だが、哀しいかな、俺にはそれを口にする度胸はない。

 心を殺して身体を開く女性を抱けるような鈍感さはない。

 何より死んだ後で祖母に箒の柄でタコ殴りされるのは嫌だ。


「とてもありがたいお申し出なのですが、俺が表にでるとサザーランド王国に目をつけられてしまうかもしれません。

 だからひっそりと隠れて暮らしたいのです。

 ただ魔術の勉強はしたいので、王家の書物を読む許可はください」


「我が国の事情を察してくださり、感謝の言葉もございません。

 確かにこれ以上サザーランド王国に目をつけられるわけにはいきません。

 万が一戦争になってしまったら、国民は皆殺しにされるか奴隷にされます。

 情けない事ですが、現実は認めなければなりません。

 ヒデオ様には申し訳ない事なのですが、図書の閲覧許可だけで我慢してくださり、感謝の言葉もございません」


 そんなに謝ってもらわなくても大丈夫です、国王陛下。

 王命で無理矢理女性に身体を開かせるのは耐えられないけど、普通に恋愛するのは自由だし、お金が好きな女性と割り切ってお付き合いするのは大丈夫。

 誰の目も気にしないでいい状態になったら、好きにやらせてもらいます。

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