第9話:田舎芝居
凄いのひと言しかなかった。
普通なら蝶よ花よと育てられるであろう一国の王女が、宗主国の騎士団長に匹敵するほどのステータスなのだ。
どれほど努力をしてきたことだろうか。
宗主国の無理難題から国を守るためにがんばっているのがよく分かる。
いや、エリザベス王女だけではない。
王女を護る姫騎士団も女性達もすばらしいステータスだ。
誰もが宗主国の騎士平均よりも高いステータスだ。
奴隷仲間の話しでは、スタッフォード王国の人口は1万人程度らしい。
それに比べて宗主国のサザーランド王国は20万人くらいいるそうだ。
数の少なさを個人の能力で補おうとしているようだが、苦しいだろうな。
「土魔術、サンドスネーク」
エリザベス王女から魔力が発せられるのが分かった。
それとともに砂漠の砂が集められ、まるでヘビのようにのたうつ。
細かい砂粒が激しく動いているのが分かる。
サンドスネークで攻撃されたら、身体が磨りきられてしまう。
砂の成分によったら銅や鉄でも断ち切られるだろう。
しかもどんな小さな穴からも身体の中に入り込まれてしまう。
思っていた通り、サンドスネークはサンドスパイダーの身体に入り込んで、中からサンドスパイダーを切り刻んでしまった。
普通の騎士が槍や剣で攻撃しても斃せない敵を、一撃で斃してしまった。
砂漠の民だからこそ、そのに住む魔物を斃す術を知っているのだろうな。
この魔術は直ぐの反復練習して覚えなければいけない。
だけど俺にとって一番の問題はそこじゃない。
「私たち砂漠の民は貧しい人からモノを奪うような卑劣漢ではない。
飢えに苦しむ人がいれば、大切な食料を分けるくらい優しい民だ。
だが貴君ら監視者たちにもこの食事を分け与えて差し上げよう。
貴君らは同じ人間を奴隷としてさげすみ、鞭打って無理矢理働かせている。
だが我々には同じ人間を奴隷するような文化はない。
同じ人間として貴君らと同じ量の食事を分け与える。
まさかとは思うが、属国の王女の言う事だからと逆らわないでしょうね」
常にエリザベス王女に付き従う側近の女性が、アンたちに嫌味っぽく言う。
だがどうもおかしい感じがする。
どうにも臭い芝居を見せられている気がしてならない。
そもそも誇り高いフランセスが護ろうとするほど、アンも気高い女騎士だ。
属国の民だからといって差別する性格だとは思えない。
だとすれば、監視部隊にいるだろうスパイの目を気にしているのだろうか。
「ふん、私も誇り高いナイト家のアンだ。
王族が奴隷に与える食事を横取りするほど恥さらしではない。
好きにするがいい」
「では好きにさせてもらうよ、アン騎士長殿。
それと、サンドスパイダーはいい素材になる、
貴君の所の奴隷に運んでもらいたいのだが、頼めるかな」
「はん、最初からそれが目的か。
こいつらにはこいつらの役目がある。
だからそっちの頼みを聞いてやるわけにはいかん。
だが、まあ、そうだな。
宗主国である我が国の奴隷が、受けた恩を返さないと言うのも恥かもしれぬ。
まあ、奴隷に恥などという気持ちがあるかどうか疑問ではあるがな。
奴隷どもが役目を果たした上に持つと言うのなら構わんよ。
そんな事はありえないと思うがな」
なるほど、こういう目的だったのか。
本当に臭い芝居だ。
こんな芝居でスパイの目をあざむけるのかね。
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