第10話:最初の殺し
残念ながらスタンフォード王国はオアシス都市ではなかった。
地上に湖や池が出現するほど水脈が豊かではなかったのだ。
地下深くにある水脈まで井戸を掘り、それを汲み上げて使っている。
無計画に汲み上げてしまったら、水が枯れてしまうほど乏しい水脈だ。
だからスタンフォード王国の民には水魔術が使える者が多い。
いや、そうでなければ生きて行けないくらい厳しい土地なのだ。
俺はスタンフォード王国に着いてから魔術について色々と考えた。
魔術で発生させる火や水や土はどこから集められるのかを。
もし周りから集めるとしたら、それは盗みと変わらない。
水を隣の家の水瓶から集めたら、ここなら命懸けの争いになる。
そんな事が起きていないという事は、別の次元や異世界から集めていることになるのだが、正確な事は分からなかった。
「おい、さぼっているんじゃない。
さっさと城壁の外に行って囮になれ」
性根の腐った女騎士が偉そうに命令してくる。
たぶんだが、このクソ女が王家のスパイだと思う。
俺たち奴隷を囮にしてサンドスパイダーやサンドワームを狩ろうとしている。
俺たちが運んだサンドスネークの牙や爪、外骨格が予想外の高値で売れた。
スタンフォード王国の職人にはそれらを上手く加工して剣や防具にする。
豚や牛の皮を使った防具よりも丈夫で、しかも砂漠の暑さに耐性があるのだ。
宗主国から高い関税を払って武器や防具を買うよりずっと安くて良品だそうだ。
「必ず斃してください、騎士様」
奴隷の一人が命じたクソ女騎士に哀願する。
まだ死人は出ていないが、もう何人も手足を失った奴隷がいる。
アン騎士長がこの国に滞在している大使と話し合っている間にやりたい放題だ。
奴隷仲間の話しでは、その大使とはこのクソ女騎士は遠い親戚らしい。
それを鼻にかけて偉そうにしているのか、それとも本当に監視役なのか、今の俺にはまだ判断がつかない。
「やかましいわ、奴隷の分際で私に話しかけるな」
クソ女騎士はそう言うと気の弱い奴隷を鞭で叩きやがった。
「お許しください、私が悪かったです。
もう何も言いません。
どうかお許しください」
「今さら何を言っても遅いのよ、バカが。
奴隷ごときが図に乗るんじゃないわよ。
アンのバカが甘いから奴隷がつけあがるのよ。
王都に戻ったら、ある事ない事報告して処刑してやるわ」
こいつはここで死んだ方がいいな。
指揮官の目を盗んで奴隷を私的に使って狩りをやっている時に、サンドワームに飲み込まれて骨も残さずにんでしまった事になる。
砂漠の砂を舞わせて何も見えなくする魔術は盗み覚えた。
魔術のサンドスネークを駆使して魔物を砂と同じくらい細かくする方法も覚えた。
最初に人間に使うことになるとは思わなかったが、罪の意識は浮かばない。
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