第5話:召喚側

「くっくくくく、なかなかやりますね、勇者殿。

 いい交渉相手がえられてうれしいですぞ、勇者殿。

 では金貨100枚と美女は前払いさせていただきましょう。

 その上で、じっくりと条件を話し合おうではありませんか」


「おおおおお、やったぜ、金と女だ」

「おんな、おんな、おんな、お、いい女がいるぞ」

「おい、こら、勝手に決めるな、その女は俺がもらうぞ」

「……」


 召喚された場所にはサーコートとローブを着た者がいた。

 恐らくサーコートは騎士でローブは魔術士だ。

 ローブの人間はほぼ全員が床に倒れている。

 さっきの話しから、召喚魔術を使った影響で気絶しているのだろう。

 だから顔が分からない者が多い。

 だが堂々としている騎士は顔が分かるから、美しいか醜いか一目瞭然だ。


「ぎゃっ」

「ぐっふっ」

「おい、こら、てめえ、約束が違う、殺すぞ」

「……」


 さっそく女騎士だと思われる人に抱きつこうとした不良が、一撃で倒された。

 実力に雲泥の差があるのは一目瞭然だ

 勇者といえども召喚直後は異世界人よりも弱いようだ。

 慌てて戦わないで正解だったな。

 念のためにステータスを確認しておこう。


『氏名:フランセス・ゴア』

人体:基礎/レベル54

職業:重戦士/レベル10

  :HP/54/54

  :MP/54/54

「戦闘スキル」

火魔術:レベル2

水魔術:レベル2

槍術 :レベル10

剣術 :レベル7

短剣 :レベル7

馬術 :レベル10

「生産スキル」

野営 :レベル7


『アン・ナイト』

人体:基礎/レベル36

職業:戦士/レベル6

  :HP/36/36

  :MP/36/36

「戦闘スキル」

火魔術:レベル3

水魔術:レベル3

風魔術:レベル3

槍術 :レベル6

剣術 :レベル6

短剣 :レベル6

馬術 :レベル6

「生産スキル」

野営 :レベル6

料理 :レベル6


 これは勝てないはずだ。

 基礎レベルも職業レベルも足元にも及ばない。

 ゆいつ勝っているのは、勇者特典のHPとMPくらいだ。

 だけど、これだと、俺ならこの世界の猛者にも勝てるのかな。

 どれだけ攻撃されてもHPが0になりそうにない。


「ゴア男爵、サー・アン、勇者殿に失礼だぞ」


「失礼は勇者の方でしょう、ジョージ王孫殿下。

 我ら騎士は売春婦ではない。

 殿下が我ら女騎士を売春婦扱いすると言うのであれば、忠誠を尽くす価値なし。

 この場で名誉をかけて剣を抜かせていただきますぞ」


 これはおもしろいことになってきた。

 召喚した者たちも一枚岩ではないようだ。

 勇者召喚して大陸制覇を目指す者たちと、反対する者たち。

 対立しているのなら、戦うことなく逃げ出せるかもしれない。


「ふむ、確かに剣の名誉に命を賭ける騎士を売春婦扱いするわけにはいかんな」


 嘘だな、こいつは誰かを正当に評価するような人間じゃない。

 自分のためなら親兄弟も平気で殺す奴だ。

 まして配下の騎士を気づかうことなどない。

 長年人を診てきた俺には分かる。

 今はまだ女騎士の力が必要だから引いただけだ。

 そうでなければ平気で不良どもになぶらせただろう。


「勇者殿、ここにいる者は王国に仕える野暮な騎士だ。

 恋の駆け引きなど分からぬ無粋者だ。

 勇者殿達には、恋の駆け引きを楽しめる美しい貴族令嬢を紹介しよう。

 それに、今の勇者殿達ではただの騎士にも勝てず、簡単に殺されるぞ。

 それでも、どうしても、その女騎士が欲しいかな」


「ばかやろう、だったら最初からそう言え」

「……分かった、別室で話しをさせてもらおう」


 フランセスとアンに殴られた2人は完全に気を失っている。

 1人は強がっているだけだな。

 もう1人は、逆らうと殺されると理解したか。

 召喚側は一度召喚に成功しているのだ。

 素直に従わなければ皆殺しにして召喚をやり直せばいいだけだ。


「そこに倒れているゴミは始末しておけ」

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