第6話:危険が一杯

 ジョージ王孫と呼ばれた奴が不良たちを連れて出て行った。

 2人は騎士に背負われて出て行くという情けなさだ。

 あれで勇者とは笑えるが、腐っても勇者だ。

 鍛錬する事でこの世界の人間よりはるかに強くなるのだろう。

 その時、誇り高い女騎士がどんな運命になるのか、考えるのも嫌だな。


「行かれたか、ではさっさとゴミを処分するか」


 そう口にした男のステータスを確認してみた。

 とんでもなく強い相手だとしたら、戦うよりも逃げた方がいい。

 転移魔術は移動する先が想像できないから無理だけど、快速や瞬足の魔術は使えるような気がする。

 それどころか飛行魔術すら使える気がする。

 高所恐怖症だけど。


『リチャード・トレンサム』

人体:基礎/レベル54

職業:重戦士/レベル8

  :HP/54/54

  :MP/54/54

「戦闘スキル」

火魔術:レベル1

水魔術:レベル1

槍術 :レベル8

剣術 :レベル7

短剣 :レベル7

馬術 :レベル7

「生産スキル」

野営 :レベル1


「やめろ、リチャード。

 倒れている人間を殺すなど恥ずかしいとは思わんのか」


 フランセスという名の女騎士が助けようとしてくれる。


「俺も卑怯だとは思うが、ジョージ王孫殿下の命令ならしかたがない。

 下手に逆らえば自分だけでなく家族も殺される。

 それに、気を失っている人間を殺すのが卑怯なら、起こしてやればいい。

 武器がないと卑怯だと言うのなら、最高の剣と鎧を貸してやればいい。

 騎士として遇して殺してやればいい」


 なるほど、ジョージ王孫という奴が恐怖政治を行っているのだな。

 いや、まだ決めてかかってはいけないな。

 ジョージが王孫という事は、王子や王もいるのだろう。

 ほんとの権力者は他にいて、ジョージ王孫が虎の威を借りる狐という事もある。


「それが卑怯だと言っているのだ。

 あの程度の勇者に半殺しにされる老人だぞ。

 なにをどうつくろっても、騎士が無抵抗の老人をなぶり殺しにするのだ。

 これほどの不名誉がどこにある」


「……それは、確かに、その通りだ。

 儂だってこれがどれほど卑怯な事なのか分かっている。

 だがこれがこの国の方針なのだ。

 サザーランド王国の騎士家に生まれた俺に逆らう事などできんのだ」


 諦観の気持ちが伝わってくるな。

 どういう道徳観や風習があるのかは分からないが、王家に仕える騎士家に生まれた人間が、王孫に逆らえないくらいの忠誠心はあるのだろう。


「フランセス、リチャードを責めてもどうにもならんぞ。

 これ以上逆らえば、いずれお前が殺されることになるのだぞ。

 もう邪魔するのは止めろ。

 同じ騎士団長を殺すような事はしたくない」


 今度は別の男が会話に加わってきた。

 

「もう遅いよヘンリー。

 私とアンが殺されるのは確定しているよ。

 ジョージ王孫殿下が一度逆らって人間を許すはずがない。

 逆らわずに忠誠を尽くした人間すら平気で殺す方だ」


 うわ、なんて危険な国なんだ。

 様子を見ている場合じゃない。

 さっさと逃げ出すべきだ。

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