第3話:危機

「対等だな、対等なら、話しによったら協力してやる」


 これはまずい、俺が殺される可能性が極端に強くなった。

 元の日本ですら俺を殺しかねなかった不良たちだ、異世界で罪に問われないとなれば、俺の事など平然と殺すだろう。

 召喚した連中にとっては、利用価値があるのは勇者だけだ。

 俺の事など平然と殺すことだろう。


「そうですか、ではこちらの目的から話しましょう。

 我らの目的は大陸制覇です。

 勇者殿の力を借りて、全ての国を滅ぼす。

 そして我がサザーランド王国が大陸を支配する。

 協力していただけるのなら、王族として遇しましょう。

 いかがかな、勇者殿」


 さっきまで勇者様と言っていたのに、今はもう勇者殿と言っている。

 持ち上げて騙すやり方から、対等の交渉相手にしたと思わせようとしている。

 だが俺にはあいつの本心が分かる。

 不良の言い分を飲んだように見せかけて、油断させて罠にはめるつもりだ。

 何より問題なのは、敵が4人とも勇者なのを知っている事だ。


 敵の中にステータスを見ることができる奴がいる。

 もし無条件で人のステータスを見ることができるのなら大問題だ。

 俺のステータスも見られてしまう事になる。

 だがよくあるレベル差による制限があるのなら、俺のステータスは見れないだろうが、それはそれで問題がある。

 ステータスを見られない事で、俺の方が不良勇者より強いのがバレてしまう。


 俺が割り切って悪事を働くことができればいいのだが、無理だ。

 不完全な良心が痛んで、とても悪人に徹しきれない。

 こいつらの手先になって人殺しをする事などできない。

 異世界があるのだから死後の世界もあるだろう。

 死んだ後で、ばあちゃんに箒でバシバシ叩かれるのは嫌だ。

 60年近い人生を歩んだ後で、いくら祖母が相手とはいえ、悪さをしたからと言って箒でしばかれたくはない。


「王族待遇にすると言うのだな。

 だがその王族待遇というのは、どういうものなんだ。

 それをちゃんと聞かせろ。

 そうでないと絶対に協力などしないぞ」

「そうだ、そうだ」

「俺たちの力が借りたいのならちゃんと金を寄こせ」

「金だけじゃねえ、女だ、女もよこせ。

 さもないとここに倒れている奴のように半殺しにするぞ」


 おい、こら、俺に注目を集めるな。

 もう少し時間があると思っていたのに、これでは急いで結論をでさなければいけなくなるだろうが、この不良。


「ふむ、先程から汚らわしい者が倒れているのは気になっていったのだが、どうやら勇者殿が倒した相手のようだな。

 いったいどういう事情なのかな」


「ふん、事情も何もあるか。

 金が欲しかったから半殺しにしただけだよ」

「そうだ、そうだ、そうだ。

 お前達も素直に金を寄こさなければ半殺しにするぞ」

「そうだぞ、俺たちの協力が必要なんだろ。

 だったらさっさと金と女を寄こしな」

「……」

 

 これはダメだ。

 急いで強くなるしかない。

 思いつく限りの事を全て試して強くなる。

 それでもダメなら、自分が不良よりも強い英雄だと話して時間稼ぎをする。

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