第2話:不良勇者

 石床部屋の上座であろう方向に一段高い席を設け、偉そうに座っている奴。

 そいつの一言で、情報をダダ洩れにしていた連中が一瞬で黙った。

 権力者である事が一目瞭然だ。

 こういう場合はだいたい王太子か簒奪をもくろむ王子だ。

 勇者を召喚しようというのに、偉そうに一段上から見下ろしている。

 これだけで召喚した勇者を自分の都合で利用している事が分かる。


「よくぞ我らの召喚に応じてくださいました、勇者様」


 言葉では感謝の気持ちを表しているようだが、内心の邪悪さがにじみでている。

 そういえば、定番通り異世界の言葉が分かる。

 なぜ分かるかなんて考えても意味がない。

 それよりもこの王子が俺をどう処分しようとしているのを見極める。

 そして自分がどうすべきかを、できるだけ早く決めるのだ。


「なんだ、なんだ、なんだ」

「くるな、ちかよるな」

「なんだ、こら、やるのか、やるなら殺すぞ」

「おい、こら、まて、俺が話す。

 俺が話すからお前らは黙ってろ」


 4人不良のうち、だれがリーダーなんだ。

 それによってどうなるかが変わってくる。

 この場で大乱闘になるのか、それとも王子であろう奴に騙されて丸め込まれるか。

 堂々と渡り合あって有利な立場を築く可能性も少しはある。


「落ち着いてください、勇者様。

 我らには何の敵意もございません。

 お願いしたい事があってお呼びしただけでございます」


 相変わらず言葉はていねいだが、俺には黒い色がついているように感じられる。

 騙して利用してやろうという意思が明確に伝わってくる。

 ありがたい事に、殴られ蹴られボロボロになっている俺の事など眼中にない。

 王子であろう奴の目が俺に向いていない間にやれる事をやる。

 まずやるべき事は、不良どものステータスを確認する事だ。


『氏名:平内勇夢』

人体:基礎/レベル10

職業:勇者/レベル2

  :HP/100/100

  :MP/100/100

注 :勇者職のHPとMPはレベルの2乗

「戦闘スキル」

喧嘩術  :レベル2

槍術   :レベル1

「生産スキル」


 俺の方が弱かったら、相手のステータスを見る事はできない設定が多い。

 だが簡単にできてしまった。

 こちらに召喚されたばかりなのに、俺はレベル100で不良はレベル10だ。

 勇者召喚だと言っていたから、召喚相手がこいつなのは間違いない。

 俺と他の不良は巻き込まれただけなのか?

 もう1人確認しておくか。


『氏名:原田寛之』

人体:基礎/レベル10

職業:勇者/レベル2

  :HP/100/100

  :MP/100/100

注 :勇者職のHPとMPはレベルの2乗

「戦闘スキル」

喧嘩術  :レベル2

弓術   :レベル1

「生産スキル」


 ああ、これは、こいつも勇者か。

 この不良勇者もレベル10だな。

 勇者特典なのか召喚特典なのか分からないが、レベル10から始められるのか。

 いや、俺が英雄でレベル100だから、召喚特典ではなく勇者特典だな。

 ありがたいのは、英雄職のHPとMPが3乗される事だ。

 

 どう考えてもチートで無敵設定だな。

 普通なら勇者の2乗特典も十分無敵設定なのだが、俺に比べれば弱すぎる。

 2人が相手なら軽く勝てるだろう。

 死ぬかと恐怖を感じるくらい殴られ蹴られたんだ。

 今度は俺が半殺しにしてもいいよな。

 だが念のために残った2人のステータスも確認しておこう。


『氏名:館野伊織』

人体:基礎/レベル10

職業:勇者/レベル2

  :HP/100/100

  :MP/100/100

注 :勇者職のHPとMPはレベルの2乗

「戦闘スキル」

喧嘩術  :レベル2

剣術   :レベル1

「生産スキル」


『氏名:山崎元気』

人体:基礎/レベル10

職業:勇者/レベル2

  :HP/100/100

  :MP/100/100

注 :勇者職のHPとMPはレベルの2乗

「戦闘スキル」

喧嘩術  :レベル2

格闘術  :レベル1

「生産スキル」


 よし、俺の無敵は確定した。

 召喚前の俺とは決別だ。

 不良にボコられて、死ぬ前に夢を見ているだけでも構わない。

 夢の中でくらい無双させてもらっても罰は当たらない。


「お願いとは何だ。

 俺たちを利用しようとしているのならムダだぞ。

 勇者召喚をするくらいだから、お前達も困ってるのだろう。

 俺たちを殺す事などできないはずだ。

 本当の事を言わなければ力は貸さんぞ」


 これはこまった。

 不良の中にも多少は頭のまわる奴がいるようだ。

 それとも、たんに猜疑心が強いだけなのだろうか。

 どちらにしても、これでは不良と国が手を組んでしまうかもしれない。

 両者がけん制し合っていたり一方的に利用してくれたりするほうがいいのだ。

 

 多くの設定では、そのスキを利用して主人公は逃げるのだ。

 協力されたら逃げ出すことができなくなってしまう。

 今の俺には、この世界の様子も自分の力をどう使うかもわからない。

 この状況で不良勇者と国の両方を敵に回して逃げるのは難しい。

 どれほどレベルが高く、無限の英雄魔術が使えるとあっても、その英雄魔術を1つも知らないのだから。


「そうですか、仕方ありませんね。

 こういう場合の事も考えていましたから、そちらに変えさせていただきましょう。

 しかしながら、4人も同時に勇者を召喚できるとは思ってもいませんでしたよ。

 そのせいで、ほぼ全員の魔術士が使い物にならなくなってしまった。

 これでは想定以上に譲歩しなければいけませんな。

 では、対等の立場で交渉させていただきましょう」

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