第37話

 どうも、私は小林 幸と言うものです。

 クラスの皆からは小林さんと呼ばれています。

 とはいえそのクラスの皆というのは彼女たちを覗いた人達であって今の自分はとてつもない自体にあります。

 何があったかと言うと生徒の味方である青山先生が泉さんという方の電話に呼び出されていなくなってしまい私は俗に言うギャルと呼ばれるお方達と同じ空間にポツンといるわけです。

 えぇ、わかっています。

 そもそも私が衣装の時に長篠さんのことを引き受けた時点でこうなるかもということは考えて置いてはいました。

 なるべく喋らなければならない時間を減らすために家で衣装制作を進めたりもしました。

 でもまさか生徒の味方の青山先生が長篠さんの愉快な仲間·····を連れてくるとは····

 もちろん青山先生には私を苦しめようなんて考えがないのはわかっています。

 ですがあの人は生徒の味方であり私の味方では無いのです。

 でも·····でも!

 お願いですから早く戻ってきてくださいよぉー!

 なーんて考えながら作業を進めています。

 彼女たちはと言うと作業なんてするはずもなくある人の悪口を言い合って笑いあっています。

 ある人というのは小鳥遊さんという方です。

 小鳥遊さんはアルビノなそうですが女性である私から見てもとても可愛くて美人だと思ってしまいます。

 彼女が原因で別れたカップルも少なくなく彼女に対して敵意のようなものを持ってる女性も同じようにいます。

 そしてその話をされた時に私は笑って誤魔化すしかありません。

 今だって立ち上がって彼女たちを諌めるべきなのでしょう。

 ですが私には怖くて足がすくんでしまいます。

 こんな私にできるのはこの話を本人が聞いてないことを祈りつつこれを黙って聞いてないふりをすることだけです。

 情けないですね····

 馴染んだ手の動きを何回も繰り返して早く時間が過ぎていくことを何度も心の中で私は祈る。


「あれ?この白い衣装··さっきも····」


 とっさに漏れた声も彼女達の睨みでミシンの音にガタガタと消えていった。


◇▢◇▢◇


「あ!やっと見つけた!白愛ちゃんーどこにいたの····」


 私が階段をおりてから角を曲がるとそこには潤んだ赤い瞳を袖で擦りながらこちらへ向かってきている白愛ちゃんを見つけた。


「え!どうしたの!?」

「い、いえ····なんでもありません···」

「な、なんでもないわけないじゃん!」

「本当に···なんでもないですから···」


 これ以上何を聞いても答えてくれないと思った私はとにかく近くで落ち着いて座れる場所を探した。

 北条祭のために廊下とかにもイスが置いてあったり歩き疲れた人が休憩できるようにベンチが置いてあるため幸いすぐに見つかった。


「今なんか飲み物買ってくるから座っててね」


 そう言って私は近くの自販機がどこだったかを思い出しながら歩いていると1つの自販機を見つけた。


「······なんでここ···」


 昇降口から少し隠れたように置いてあるその自販機を前にして私は思わずそう呟く。

 その自販機には一応まともな飲み物もあるがそれがあるのは1番上の左上だけなのだ。

 ではそれ以外はと言うと


「ヨモギ茶とか高校に置くものじゃないでしょ···

シソジュースとか···」


 1番上の段は背伸びでも届かないが私はバスケ部なのでジャンプすれば届かないことは無い···無いのだが。

 ひとまずチャレンジすることにした私はお金を入れて膝を曲げると勢いよく飛んでお茶のボタンを押す。

 ついでに自分の物も買おうと同じようにジャンプした時に間違えて違うボタンを押してしまった。


「こ、これは····」


 そこにデカデカと描かれていたのはおしるこの文字だった。


「なんでこんなの置いてるのよ!!」


 思わず叫んでしまったが聞いてる人がいるはずもなく私の声は虚しく消えていく。

 しばらくして私はお茶とおしるこを持って白愛ちゃんのいる場所まで歩いていく。


「はい、白愛ちゃん、お茶買ってきたよ」

「そっちのは···?」

「あぁこれ?間違えて押しちゃったの、まぁでも気にしないで一応買ったものだし飲まないとね」

「なら私が飲みましょうか?」

「へ?」

「昔はよく飲んでいましたから、おしるこ」

「そ、そうなんだ···じゃああげるよ」


 私たちは蓋を開けるとしばらくの間雑談をしながら白愛ちゃんが落ち着くのを待った。


「さて、じゃあそろそろ教室戻る?」

「あ、あの本当に聞かないんですか?」


 きっとそれは泣いていた話のことだ。


「聞いたら話してくれる?」

「いえ、あの···」

「言いたくないなら聞かないよ」


 確かに気にならないと言えば嘘になる。

 自分にとってはもう大切な友達のひとりだし傷ついてしまったのなら一緒に傷つけた相手に怒りたい。

 それでも彼女が知らないて欲しいと願うなら私にそれを無理やり聞く理由はない。

 私にとっての友達っていうのはそういう物だから。

 だって私にも言いたくないことの1つや2つはあるんだから。


「ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらず〜ってことで戻ろうか!」

「そうですね···実行委員なのにまだ何も仕事をしてませんし···」

「あぁそれなら気にしなくても大丈夫だよ、どうせあっきーが·····」


 あっきーの名前を出してようやく私は気づく。


「やっば!白愛ちゃん見つけたこと連絡してない!」

「さすがにもう探してないですよ···」

「え、それはそれでダメじゃない?そしたらあっきークズだよ?あぁでも凛さんに捕まってとかなら有り得なくはないかも····どちらにしろあっきーはクズだね!」

「わ、私が悪いので····」

「いやこういう時は大体あっきーが悪かったりするんだよ····長年の経験則的に····」


 小学や中学でも問題の真ん中に意図せずとしてあっきーがいることは珍しくない。

 あれ?そう思うと私達結構あっきーのせいで巻き込まれた事多くない?今度奢ってもらお


◇▢◇▢◇


 とそんなおぞましいことが決定したことなど露知らずに成り行きで俺は生徒会を手伝う羽目になっていた。


「あぁ〜海の藻屑になった気分」

「随分と変わった感想ですね····」

「杉村副会長····なんでこんなに出演者リストが多いんですかね?特にバンドばっかり···」

「どうやらその業界の間で1つの噂があるんだそうですよ?」

「と言うと?」

「この学校の文化祭でステージを盛り上げれたら今後も上手くいくようになるとか」

「そんな根も葉もない···」

「それがそうでも無いらしくて年々参加者が増えていくんですよ。

 そもそもこの噂ができたのはあの伝説の····」

「?、なんですか?伝説のって」

「いえ、なんでもないです」


 俺と副会長がそんな会話をしていると隣の部屋で長電話をしていた凛が入ってくる。


「みんなお疲れ様、今日のところはこれくらいにしようか」

「凛は後半なんもしてなかったけどな」

「仕方ないじゃないか、参加者の一人から電話が来てしまったんだから、無下にはできないだろ?」

「へいへい」

「そういえば白愛ちゃんはどうなったんだい?」

「あぁ、さっき寧々から見つけたって来たよ」


 ついでに何してるかって来たから生徒会を手伝ってるって送り返したらクズ野郎って言われて今度奢れって言う脅迫めいた文章もな···

 ····なんで寧々に奢るんだろう?まぁこういう時は大人しく奢った方がいいだろうな···


「んっ、」


 腰を伸ばそうとすると先週の余韻が少し来て声が出てしまう。


「いてててて、」

「大丈夫?」

「こんなことをさせられなければ大丈夫だったな」

「皮肉ってるのかな?」


 それ以外の何があるのか聞きたかったが今ここで聞けば凛は容赦なく蹴り飛ばしてくるだろう。


「まぁまぁ、凛も落ち着いて、今日は本当にありがとうね律くん」

「いえ、こちらこそお役に立てて良かったです」


 まさかこんな常識人がいるとは···

 いや俺の周りに常識ある人が少ないだけか···


「そうだ、どうせなら生徒会に入らないかい?」

「あぁ、いえ、それはもうコリゴリです」

「そうか、まぁ僕達はいつでも歓迎だから気が変わったら来るといいよ。

 まぁどの道北条祭が終われば生徒会選挙で僕も凛もいなくなるからね。

 律くんが入ってくれればとても安心だよ」

「ちょ!それは私が頼りないってことですか!?」


 杉村副会長の言葉に木下副会長が反応する。


「んー、結愛くんは確かに生徒会を先導して新しいことに取り組めると思うけどね。

 そこに誰も着いてこないんじゃなんの意味もないからね」

「うぐっ、」


 厳しいが的確な意見に木下副会長は押し黙ってしまう。


「君なら彼女にもついていけると思ったんだよ。

なんせ君は····」

「昔のことですよ。

 それに実質やっていたのは凛だけです。

 俺は何もしてない」

「そうかもね」


 少しの間無言の時が続いたが凛の言葉によってそれが終わる。


「さて、そろそろ無駄話は終わったかい?」

「悪かったね凛、時間をとったよ」

「君にしては随分と突っかかったね」

「そうだね、僕らしくなかったよ。

じゃあみんなお疲れ様、また明日ね」


 杉村副会長の言葉で生徒会室の人達はバラバラに自分たちの教室へと戻っていく。


「じゃあ俺も···」

「あ、そうだ律、明日もお願いね」

「いやだ!」

「そうだ、律···」

「な、なんだよ」


 こういう時はやっぱり悪い予感しかしないのだ。


「君のお母さんがね?やっぱり20位は緩すぎるかなって言ってたんだよ。

 いやぁ、律が手伝ってくれるなら忙しいからそれくらいで充分だと伝えられるんだけど····」

「因みに20位じゃなくなったら次は何位に···?」

「確か、5位だったかな」

「やります!やらせていただきます!」


 5位とか危なすぎるだろ!てかハードル高!母さん自分は高校の時最下位だったくせに息子になんちゅうもん望んでんだ!


「そ、良かったよ」


 心無しか凛の隣にいた杉村副会長が苦笑していた気がする。

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