第28話

青山冬子〜〜


「はぁー」


 私は家に帰るとすぐにベッドにダイブして疲れを吐き出した。

 本当はあの子の話を秋山くんに話すつもりなんて全くなかったのだ。

 それなのに話してしまった。

 もしかしたらこの事が彼に負担をかけてしまうかもしれない。

 私にはそう思えてならなかった。


◇▢◇▢◇


 私が夢だった教師に着任して初めてクラスを持った時の話だ。


 私はちゃんとクラスの子達と同じ話題で話せるように今の子達の流行りなどをちゃんと勉強して同じ目線でたってあげられる優しい頼れる先生になりたかった。

 もちろん最初は分からないことだらけで毎日がとても大変だったがそれすらも楽しいと思えるような毎日だった。

 自分で言うのはおかしいかもしれないが生徒達にも結構、好評な先生をできていたと思う。

 もちろん教師が舐められる訳にも行かないので厳しいところは厳しくしてたがそれでも生徒たちはしたってくれた。


「米山優美さん、」

「はーい!」


 いつものように出席を数え終えると生徒たちを見回す。

 いつもと変わらないような笑顔で昨日のテレビの話などで盛り上がっている。

 何かで思い詰めたりしているような生徒が居ないかを確認するのが私の日課だと思っているのでこうして顔を見ていくが誰一人そんな顔はしていないことに安心する。


「ねぇねぇ!青山先生!」

「ん?どうしたの?」

「昨日のあの漫画の最新刊みた!?超面白かったんだけど!」

「え〜まだ見てないかも!」

「うっそ!絶対見た方がいいって!なんなら教えてあげようか!?」

「こら、優美、ネタバレするんじゃない!」

「いった〜もぅ、叩かないでよ美波ちゃんー」


 そんな2人の女子生徒のやり取りを笑って見守る。


「先生助けて〜、美波ちゃんが暴力振るってくる〜」

「もう、すぐ優美は先生先生って····」


 美波ちゃんは、そうやって言うが私にとっては頼ってくれる方がとても嬉しい。


「まぁ、優美ちゃんも人の嫌がるようなことはしない、美波ちゃんもあんまり叩いたりしないようにね?」

「「は〜い···」」

「もぅー美波ちゃんのせいで私まで怒られちゃったよ〜」

「私のせい!?」


 そんな2人を置いて教室を出ると近くにいた他のクラスの生徒達からも挨拶をされる。


「青山先生、おはよーございます」

「はい、おはようー」


 その一つ一つにちゃんと答えて職員室へ向かっている途中で教室から出てきた佐藤先生と合流した。


「いいなぁーどうやったら冬子ちゃんみたいにそんなに生徒に懐かれるのー?私なんてなんか怖がられてる気がする···」

「それはほら、愛美ちゃん、バスケの時に人が変わるから···」


 私も1度見たことがあるのだがバスケを教えている時の愛美ちゃんはまるで鬼だ。

 それが部員たちから伝わってほとんどの生徒に怖がられているんだろう。


「え〜そんなことないよ!きっとアレだよ、私が数学を教えてるからだよ···」

「そんなことはないと思うけど···?」

「だって愛美ちゃんの教えてる化学とかは実験ができるから好きな生徒も多いでしょ?それに比べて数学なんていつものように数字ばっかりだよ!?

それにさ、なんでPの点は動くんだよとか言われるけどそういうもんだからだよ!!ってつい言いたくなるし」

「そ、そう···」


 その分かりそうで分からない事で盛り上がってる愛美ちゃんに苦笑いをする。


「そういえばそっちのクラスの米山さん、凄い頭良くてさ、この前なんてこっそり大学の問題を入れて小テストしたのに100点取られちゃった···」


 それは普通にダメでは?と思いながらも気持ちはわからなくもなかった。

 米山さんは普段はほのぼのしたような感じだが勉強に関してはどの教科の先生も一目置いている。

 実際、化学のテストで100点阻止問題を作ったのに軽々と解かれていた。

 しかも先生たちがテスト中に訂正部分とかを伝えるために教室に入ると米山さんはほぼ毎回解き終えて寝てしまっているのだ。

 そのほぼというのも訂正を聞かなければ絶対に解けないような問題があるときだけであり、正直、先生よりも頭がいいのではとまことしやかに囁かれている。

 そんなことを考えていると職員室へ着く。


「2人とも遅い!!いつまで待たせるつもり!?もうすぐ授業が始まるのよ!?」

「「すみません·····」」

「いい!?教師って言うのは!生徒達の見本となるようにしなければならないの!そんな教師が遅刻なんて許されないのよ!?わかってるの!?」

「「はい·····」」


 私たち二人はいつもの様にして学年主任に怒られる。

 とはいえ、これももう慣れたものだと感じてくる。


 そんな日々は早い物ですぐに流れてしまう。


▢◇▢◇▢


「全くさー主任は怒るといつも話が長いんだよね〜遅刻する理由っていつもアレじゃん?そんなに何回も言われなくたって分かります〜」

「本当よね!」


 私と愛美ちゃんは同い年で同じ場所に新任したということでいつも仲良くしていた。

 今日も金曜の帰りということで居酒屋でお酒を飲んでいた。


「全くーねぇ!?いっつもいっつもガミガミいいやがって!」

「本当よ!しかも生徒達がそばにいてもお構い無しで怒るのよ!?」

「ね!?それ意味あるの!?こっちのイメージが崩れるんだけど!?」

「えー愛美ちゃんの場合は崩れた方がいいんじゃない〜?」

「確かにそうなんだけどさ!恥ずかしいじゃん!

もうさ!高校の時から世渡りの授業とかすれば!?絶対数学とかよりも役に立つって!」

「愛美ちゃん〜それは言っちゃあ行けないお約束よ〜?」


 酔いが回ってるせいか普段口にしないようなことも平気で喋ってしまう。

 もちろんこんな会話を主任に聞かれようものなら特大の雷が鳴り止まない。

 それを堂々と言わせてしまうお酒はやっぱり怖いものだ。


「今の子達もいつかはこうやって私たちみたいに飲んだくれるのかなぁ〜」

「急に何の話〜?」

「なんでもない〜」

「あぁ、でもそろそろ二者面談が始まるわねぇ〜」

「そうよ〜」


 二者面談はその後の三者面談で詳しく話すために生徒達から将来どうなりたいかを聞くために用意していた物だった。

 これは私にとっては憧れてた物だ。

 この時、生徒の悩みに寄り添ってあげられる先生になりたかったのだ。


「でもさぁ〜何になりたいかを聞くのはいいけどさ、農家とか言われたらどうしよ〜」

「ちゃんと調べとかなきゃね〜」

「え〜?冬子ちゃん、そんなことも調べるの?」

「そりゃもちろん〜生徒のためだもん〜」

「冬子ちゃん、やっさし〜」


 私は既に色んな職業を調べていて、ある程度のものならすぐに答えて生徒達に教えてあげられるように準備をしていた。

 余程マイナーな職業じゃなければきっと力になれる。

 なってあげるんだと私は心に誓っていた。

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