第18話

「あの、勉強ばっかで女っ気の1つもなかったあの律に!?ラブレターだと!?」

「おいおい、敦也?ぶん殴って欲しいならそう言えよ?」

「いや、だってそうだろ?実際、さっきだって小鳥遊さん怒らせてたじゃん?」

「な、おまそれ」


 見てたのかよ。


「珍しく律が女子と歩いてるからそっと遠くから見てたのによー雰囲気がやばそうだから仕方なーく俺が来てやったんだぜ?」


 敦也は感謝しろとでも言いたげな顔で俺の方を見てくるのがまたムカつく···

 でも確かに、普段学校では無表情の彼女を怒らせるほどならば余計に俺のところにラブレターが入っている事が信じられない。

 間違えて入れたとか?

 そう思って確認するがやはり、秋山くんへと書いてある。

 2人に促されて中に入っている紙を確認すると、放課後に屋上に来て欲しいと書いてあるが差出人の名前は書いてなかった。

 だが、代わりに日付が書いてあった。


「なぁ、この日付って····」

「昨日···ですね···」


 それに気づくと2人はうわぁーという目で見てくる。

 いや、そんな目で見るなよ···しょうがないだろ?ぎっくり腰だったんだから···


「秋山さん··どうして私が毎日のように放課後待っているか分かりますか?

それはですね?何となくの軽い気持ちで告白する方もいますが、中には本当に思ってくれている人もいるからなんです···女の子なんかは特にそうです」


 うん、あれ?なんで俺説教みたいなことされてるの?俺悪い?


「俺だって、今までそういうのを何回か貰ったけどちゃんと行って断ったんだぜ?」


 敦也よ、何回か貰ったということを初耳だったことについては後で話すとしてなぜお前までそんな目で見る?さっき小鳥遊さんに教えて貰ったよな?ぎっくり腰だったって、


「はぁ、こういう事があるから体調とかには気を使うべきですね」

「いや、大丈夫だよ小鳥遊さん。

もうこういう事は律には起きないだろうからな···」


 そう言って敦也は俺の事を悲しいヤツを見るような目で見て、背中をさすろうとしてくるのでその指を掴んでやる。


「いててて、」

「どういうことだ?なぁ?」

「そのままの意味だよ!」


 ほほう、まだ言うのであれば仕方ない。

 俺はさっき敦也が言ったことを聴き逃してはいなかったのだ。


「さっき女っ気がないって言ったけどそれを敦也が俺に対して言ったってことを寧々に言ったらどうなると思う?」


 それは寧々からすれば自分は女として思われていなかったと言われているようなものだろう。

 そんなことを言われれば身長の時ほどではないが寧々が怒るのは避けられないだろう。

 それを考えたのか敦也に顔は青ざめていく。

 まぁ、寧々はただの友達なのでその女っ気の枠に普通に入るかどうかは知らないが馬鹿な敦也にはこれで十分だ。


「わ、悪かったもう言わないからそれだけは勘弁してくれ!」

「分かればいい」

「でもよー、そのままってのはやっぱり良くないぜ?」

「私もそう思います」


 と、言われてもなぁ、名前が無いんじゃ探すことも出来ない。

 字を見たところで俺らは分からないし、かと言って他の誰かに見せて聞いてみるのも良くないだろう。


「どうしたもんかねー、」


 とりあえず手紙で驚いてそのままだった靴を履き替えていると昇降口から女子生徒が入ってくる。


「あれ、秋山今日は来たんだ····」

「長篠····」


 長篠はそのまま上履きに履き替えると一瞬、俺の持ってた手紙を見るとフンっと言って、行ってしまう。

 いつもなら俺よりも遅くに登校してくるのでこんな時間に見かけるのは珍しかった。


「ん?律ってあいつと何かあったのか?」

「いや?お前と同じで同じクラスってだけだよ」

「ま、そりゃそうだよな」


 実をいえば1度だけ····

 いや、まぁそれはほんの一瞬だったしあいつも俺の事なんか忘れてるだろう。


「まぁ今はそんなことよりコレだよ」

「もしかしたら今日も同じ場所にいるかもしれないので放課後行ってみては?」

「それもそうだな····」


 一先ずはそういうことにして俺達も教室の方へ向かう事にした。


▢◇▢◇▢


「あっきー、あっちゃんーご飯食べよー?」

「おーう」


 寧々が大きなお弁当を持って俺と敦也を呼びながら近づいてくるのでそれに俺はいつものように答える。

 というかこんなに大声であっきーとか読んでるから小鳥遊さんが間違え····

 いや普通に考えてあっきーが名前だとは思わないよな···?


「どしたの?あっきー?なんか上の空だよ?」

「ちょっと考え事してただけだよ」

「変なの〜」


 寧々は机を持って俺の机にくっつけるとイスに座って足をプラプラさせている。

 敦也は元々近かったのでもう弁当を広げていた。


「いやー、にしても律にラブレターか〜」

「え?·····」


 初耳だった寧々は口を開けたまま固まってしまった。

 そしてそのまま箸を落としてしまう。


「おい、寧々、箸落ちたぞ」

「え、あ、うん」


 そう言って拾おうとするが拾ったそばから箸をまた落とす。

 いや、そこまで驚くことか?


「驚きすぎじゃね?」

「いや、まさかあっきーに彼女ができるとは···」

「彼女じゃねぇよ」

「あっきーの分際で振ったと申すか···?」


 なんだそのしゃべり方は···

 そもそも、そのお相手に会えてすらいない。


「てか、分際とか酷いなお前も」

「だってーあっきーと喋ってる女子って私くらいじゃん?」

「別にそんなことは···」


 最近だと小鳥遊さんとよく喋ってるし、妹や凛だって···


「あ、それなんだけどさ。寧々、今日実はな?律と小鳥遊さんが一緒に朝歩いてたんだよ」

「ほうほう、その話詳しく···」

「せんでいい!たまたま会ったから話してただけだよ!」

「ほへーじゃぁあっきーは街でたまたまあったクラスメイトの女子と一緒に買い物とかするの?」

「そ、れは···」


 まずそもそも出歩かないからなんとも言えないが恐らく会釈とかで済ませるだろう。


「まぁ、これはあっきーに聞いても誤魔化されてしまうので!あっちゃん!」

「おう、寧々···」

「「いくぞ!」」


 息ぴったりだなと思いつつ何処に行くんだ?と思っていると2人は席を立って黒板の方に向かう。

 そして、2人は1人で昼ごはんを食べてる小鳥遊さんに話しかける。

 最初は急に話しかけられたことで戸惑っていたが一度俺の方をチラと見るとそのまま寧々達とイスとお弁当を持ってやってくる。


「と言うわけでゲストに白愛ちゃんをお招きしました〜」


 誰にでも馴れ馴れしくする寧々についていけておらず彼女はほとんど戸惑っていた。


「お招きされました···」

「いらっしゃい」


 3人が席に着くと寧々が手を鳴らす。


「さてと、それで白愛ちゃんに聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「な、なんですか?」

「ズバリ!あっきーとの関係は?」

「「へ?」」


 いきなりぶっ飛んだ質問が出たために俺と彼女は息ぴったりに驚いてしまう。


「あ、えっ?あっ、あっきー····」

「秋山だ」

「秋山さんとはただのクラスメイトですよ?」


 焦ってるのか寧々につられたのかは分からないが間違えそうだったのですかさずフォローする。


「え、あっきーって小鳥遊さんにあっきーって呼ばせてるの?私辞めた方がいい?」

「変な妄想せんでいい!」

「それで本当にただのクラスメイトなの?」

「そうだよ、強いていえば青山先生のせいで実行委員をやらされてるぐらいだ」

「あぁ、そっかー2人って実行委員なのか、

忘れてたよ、あっきー1回はほとんど途中からやってきたし、昨日は休んだし、ほとんど白愛ちゃんに押し付けてるもんね?」


 ぐぅ、意図的ではないにせよ、そうなってしまっている以上は認めざるを得なかった。


「本当に申し訳ない限りで····」

「いえ、気にしないでください、秋山さんも大変だったんですから····」

「なにが?あっきーって何かあったの?」

「あ、いや、なんでもないです···

加藤さんも忘れていただければ····」

「ふぅーん。じゃあさ加藤さんなんてむず痒いから寧々って呼んで?

白愛ちゃんもクラスメイトなんだから小鳥遊さんなんて呼ばれたらよそよそしくて嫌じゃない?」


 寧々はそう言うがもちろん寧々自身も嫌じゃなくてそう呼んで欲しいといる人がいることを知っているので確認を取る。

 それに俺なんかは普通に小鳥遊さんって呼んでるけどな···


「じゃ、じゃあ寧々ちゃん?」

「うん!」


 戸惑いつつも小鳥遊さんは寧々と仲良くなっていたので結果的には良かったなと俺は思った。

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