第17話

 8時30分頃に俺たちは学校が見える場所まで来ていた。

 本来ならもう少し早いのだが誰かと話しているとやはり少し自然とゆっくり歩いてしまう。

 いつも前で喋って横並びになってしかもゆっくり歩く迷惑な人達の気持ちも少しは分からなくもない様になった。


「へーこんなに早くつくんですね····」

「逆に小鳥遊さんは今までどのくらいかかってたの?」

「そうですね、朝は少し見やすいので1時間もしないですね」

「見やすい?」

「あ、いやなんでもないです」


 そそそっと焦りながら俺から距離を取ろうとするが、彼女はガードレールにぶつかってしまう。


「いた、」

「何やってんだよ···あぁ、ほらスカートが白くなってるぞ」

「あ、ほんとですね···」


 彼女はそう言ってスカートを叩こうとするとその下の真っ白で綺麗な太ももが見えてくる。

 思わず俺は視線を背けるとそれを彼女は不思議そうに見てくる。


「どうしたんですか?」

「いや、」


 どうしたものか、足が見えていたからなんて言えば、それだけで?とか言われてもおかしくないし変態と言われるかもしれない、だから俺は無難に話を変える。


「そう言えばどうして上は長袖なのにスカートは織ってるの?」

「なんですかその質問、変態ですか?」


 あぁ、質問を間違えたな、むしろより変態と思われたな···


「はぁ、そうですね···足を見てくるのは変態くらいしかいないからじゃないですか?」


 なんだろう、その話題から変えたかったのに変わってないしむしろより変態と思われて損した?

 彼女はガードレールを指先でなぞると俺に見せてくる。

 俺達がそれをしたならば目に見えてわかるほど指が白くなるのだろう、しかし、彼女の指はどこにガードレールの白い物がついているのか判別することは出来なかった。


「そもそもですね、アルビノは肌が弱いとか紫外線が弱いと言います。

確かにそれはそうなんですけど今どき、日焼けクリームとかで対策ができるんですよ」


 俺は、ならなんで?とは聞くことが出来なかった。


「プリントを渡す時、握手する時、まぁそれはなんでもいいですけど足よりも腕を見る機会の方が結構多いんですよ。

だから私は腕を隠したんです。

でも、そうするととても暑いんですよ···だから下だけはスカートで涼しくしてるんです」

「大変なんだな」

「簡単に言ってくれますね···」


 俺は大変だったなと労わってあげたつもりだったが彼女にとってはどこかの琴線に触れたのだろうか彼女の目からは光が消えていく。


「何も知らないくせに···」


 彼女は怒ってるのだろう、

 なのに何故か俺は彼女からその感情を感じない、彼女の肌のように酷く真っ白でとても冷たい空気をどこか儚げに纏っている。

 だが、それも直ぐに戻る。


「おーい律ー!!」


 不意に自分の名前が呼ばれたような気がして後ろを振り向くとその先には敦也がいた。

 敦也はサッカー部でいつも走ってるからかかなり離れたところからだったのに直ぐに俺たちのところにやってくる。


「あれ?なんで律と小鳥遊さんが一緒にいるんだ?」


 こういう奴に限って結構情報網が広いから家が隣であるとかバラせば明日には彼女のことが好きなやつらが俺の元に押し寄せるだろう···


「たまたまだよ。

それより敦也はなんでここにいんだ?朝練は?」

「それが今日はないんだよ。

それで?どんな話してたんだ?」

「それはですね、男の子はいつも長ズボンで大変ですねって話してたんですよ」


 そんな話は一切してないが彼女は彼女なりに嘘をつくので俺もそれに便乗する。


「そうそう、女子はスカートで涼しそうだなって」

「あー確かに!ほんとにいいよなー女子は!俺もスカートが良かったわ」

「え?お前履きたいのか?」

「ちっげーよ!そういう事じゃなくて涼しい格好をしたいって事だよ!」

「ごめんごめん、わかってるからやめろって、痛い痛い」


 いやまじで小鳥遊さんとかならまだいいが敦也や寧々に背中を叩かれるのはマジで痛い、しかも腰に響く···


「本当に男の子は大変ですね〜」

「そうなんですよー!!男って辛いな!」


 俺には大変だねと言われて怒るくせに彼女は敦也に対して少し微笑みながら同じことを言う。

 だが、俺はそれを責めることは出来ない。

 それは彼女の言う天才が世間に紛れるという事と変わりがないのだろうから。

 そしてそれも含めて彼女の苦労の1つなんだろう、だから俺はこっそりと彼女に近づく。


「さっきはごめんな」


 俺がそう言うと彼女は敦也の手前、何かを言うことが出来ないのかニッコリとわざとらしく笑うと敦也の方に話しかける。

 それに俺は許してくれたんだと思ってしまった···


「そういえば田中さん、どうして昨日秋山さんが休んだか知ってますか?」

「あ、それ気になってたんだよな!中学の頃は1回も休んだこと無かったのに昨日は全く音沙汰なかったからな」

「それがですね?私、同じ北条祭委員として先生から聞いたんですけど、実はぎっくり腰だったとか···」

「マジで!?」


 あ、この野郎!やられた!許してくれたと思った俺が馬鹿だった····

 そんなことが敦也に知られればどうなるか!


「おい、敦也今のは小鳥遊さんの冗談だ···」

「小鳥遊さんは冗談とか言わないだろ?」


 ぐっ、どうして親友であるはずの俺より小鳥遊さんの方が信頼が高いんだ···

 彼女の方を見るとぺろっと舌を出していてそれが異様に可愛かったため、少し許したくなる。

 まぁそもそも俺が彼女の嫌がることをしてしまったんだからしょうがないところもあるのだが···

 そんなことを思っているといつの間にか正門に着いていた。


「それにしてもぎっくり腰って···ぷぷぷ、」

「笑いたきゃ笑え!」


 笑いを我慢してる感じが逆に無性に腹立たしいわ!


「悪い悪い、でも自業自得だろ?どうせ家で姿勢悪いまま勉強をしまくってるからそうなるんだよ」

「ぐっ、」

「そうですよー」


 小鳥遊さんにまで言われると少しキツイ


「そういえば小鳥遊さんってどんくらい勉強してんの?俺なんて全然してないからさー」

「私も家ではほとんどやってませんよ、いつもボーッとしてたり1人でトランプとかチェスをやってますよ?」


 1人でトランプか···なんか寂しいな。

 そんな俺の心を読んだのか彼女は膨れながら言う。


「ソリティアは楽しいんですよ?」

「さ、さようで···」

「ほへーじゃあやっぱり小鳥遊さんは天才だな!」

「そうなんですよ〜」

「それに、小鳥遊さんって思ったよりも話しやすいな!イメージと全然違ったわ」

「それは良かったです」


 彼女はふふっと笑うが俺にはその笑みがやはり冷たく感じる。

 敦也にはそれがただの可愛い天使の笑顔にしか見えていないのだからもはや怖いまである。

 そうは思いつつも俺は下駄箱を開ける。

 すると俺は固まる。


「秋山さん?どうしたんですか?」


 俺の異変に気づいた小鳥遊さんや敦也も俺の持っていたものを見てその場はさっきとは違った意味で冷たくなっていく。


「ラブ···レター?」


 幸いまだ時間は早いため下駄箱にいるのは俺たちだけだったため敦也のそんな単語が響いていた。

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