第15話
しばらく待っていると彼女は小さい机を持ってきて俺の部屋に置く。
そしてチャーハンを2皿持ってくる。
「なんで2食分?」
「昨日帰ってから思ったんですけど一気に2人分作ってしまった方が私も楽ですし一緒に食べた方がやっぱり美味しくなると思って····ダメですか?」
ぐっ、その聞き方はまずい。
そのキョトンとした赤い瞳は全ての男子高校生の心臓を射抜いてしまいそうだった。
まぁ、もちろんダメな理由などないし、俺は作って貰ってる側なのであーだこーだ言う権利はない。
「小鳥遊さんの好きなようにしてよ」
「じゃあ、一緒に食べましょう!」
「そうだな」
そう言って俺たちはそのチャーハンを食べ始める。
「そういえばですね、今日の話し合いである程度出てくるお化けは決められましたよ」
「へぇ〜どんな?」
「そうですね···無難なところで河童や座敷わらし···あとから傘おばけとかのよくあるお化けですね。
あとは雪女とかもやるそうですよ」
雪女····か、
まぁ化粧すれば白くすることもできるし暗い中で見たならかなり怖いだろうな。
なんなら扇風機とかを使って冷たい風を流すこともできるだろう。
だが俺は一つだけ気になっていた。
「なぁ、それは誰が提案したんだ?」
「え?あ、えーっとですね長篠さんですね」
長篠はギャルのような奴らのリーダー的存在だ。
俺は小鳥遊さんの方を見てみると、自分の作ったチャーハンを頬張って食べている。
そして俺に見つめられているのを不思議に思い首を斜めに傾げる。
「それがどうかしたんですか?」
「いや、なんでもないといいなって」
「なんですかそれ····それにしても最近カップルが増えてませんか?」
「あぁ、それはアレだろうな」
「アレ?」
「アレって言うのは後夜祭でやるフォークダンスの逸話だよ」
「それってよくある一生仲良くいられるとかそういう?」
「まぁそうだな。というかこんなのどの学校にもあるか···」
「そうですね···まぁ本当かどうかは分かりませんけどね···」
「でも、うちの学校のは結構信ぴょう性が高いんだって言われてるよ。
だからそれにあやかろうとする人が多いからこの時期はカップルが増えるんだよ。
ほら、前に竹下先輩が告白してきたろ?それも後夜祭のことがあるからだよ」
彼女はしばらく顎に指を当てて首を斜めにすると思いついたように手を叩く。
「あぁ、あの人ですか!」
忘れてたのかよ···
まぁ、彼女に告白する男子は多いんだからしょうがないか。
なんなら後夜祭のことで増えてるんじゃないか?告白する男子、っていうか絶対に2回以上告白してるやついるだろ。
そろそろ数が合わなくなってくるぞ?
俺が呆れていると彼女はこっちを見ていた。
「それで、秋山さんはいつ頃から学校に来れるんですか?」
「あぁ、明日にはもう行くよ。今日だって念の為で休んだんだから」
「でもまだ痛いんですよね?」
「とは言っても、少しだからね。いやー若いっていいね。治りが早いよ」
「そもそも普通の若い人はぎっくり腰になんかならないんですけどね〜」
うっ····
「これに懲りたらもう少し自分の体に気を使ってくださいね?どうせ姿勢の悪いまま何時間も勉強とかしてたからそうなるんですよ」
「ぐっ、おっしゃる通りで」
「そもそも、どうしてそこまでして勉強をするんですか?」
「20位以内にならないと大阪に無理やり連れてかれるんだよ」
「それだけですか?そもそも、最初のテストで2位を取れたくらいなのですから20位なら全然大丈夫じゃないですか?」
「いや····」
確かに順位だけを見ればまだまだ余裕はあるだろうがその差は実際の点数にしてみるとほとんどない。
最初のテストでは、500点満点の彼女の次が496点の俺、そしてその次がまぁ毎度の事ながら490のアイツだろう。
その後は480点代前半が十数人と続く。
なので10点以上落とせばどうなるかは分からない。
俺が点数操作という危ない事ができるのは100点を取れないアイツがいるからだ。
だから、油断はできないのだ。
まぁ、
「いつも100点の小鳥遊さんには分からないか···」
「何がですか?」
「あ!ごめんなんでもない」
つい言葉に出てしまったことに焦って俺は慌てる。
それは受け取り方次第では今のは単なる嫌味にしか聞こえないからだ。
だから俺はすぐさまに謝る。
「大丈夫ですよ、そんなに謝らなくても···」
そういう彼女だが、顔は先程と比べたら少し暗い。
彼女は俺に今、どんなことを思っているのだろうか。
俺にはそれを知るすべも資格もないのかもしれないがそれでも俺は知りたかった。
「怒った?」
「そうですね····確かに多少は怒っていますがそれは秋山さんの今の発言に対してではありません。
そもそも、昨日は少し泣いてしまいましたが天才と言われるのは別に大嫌いと言う訳では無いですよ?
もちろん疎外感は感じますけど言うなって言う方が無理な話です」
「でも、」
「中には純粋に褒めてくれるだけの人もいますし、なんなら私も自分で使ったりしますよ?」
「それはいいのか?自分で使うってことは自分が他とは違うと言ってるような物だろ?」
「そうですね···でもそれは仕方がないことなんですよ」
「仕方ない?」
「えぇ、そうです」
そう言った時の彼女はとても悲しい目をしていた。
「この世界は酷く平等を求めすぎました」
平等、それは昔から人が求めた物だ。
一昔前はそれを求めるが故に多くの血を流し、それでも手に入らなかった物。
今では奴隷制も少なっているが、それでも本当の意味での平等には誰も手を届かせることは出来ない。
なら、彼女の言う平等を求めすぎたというのはどういう意味なのだろうか····
「平等である方がいい、そんなのは当たり前かもしれません。
だから、そんな世界を作ろうとする。
そして、それは頭1つ抜け出したものを元の状態に叩いて戻そうとする。
だから私のような天才達は身につけるんです。
自分を周りから飛び出ないようにする術を」
もしも彼女が満点を取れるなんて天才だねと言われた時に私は天才じゃないと言ったのなら、天才と褒めた側はその本当の意味に気づくことも無く彼女に対して苛立ちを覚えてしまうだろう。
どんな人間だって自分の上に立つ人間には疎ましさを覚えてしまうだろう。
その人間が謙遜をしようものならムカつくのもおかしくはないだろう。
何故ならそれは自分が届かなかった場所だから。
下にいるものからすれば堂々としてくれていた方がそれを超えてやろうと躍起になれるのだろう。
それをわかっているからこそ彼女達は身につける。
自分の心を隠して堂々と自分が天才であると言える術を。
だってそれが皆が求めた物だから。
それがみんなが求める平等だから。
泣きたくても泣いては行けない、それが当たり前だから。
優等生である人は優等生でなければならないのと同じように頭がいい人は誰もが認める天才でなければならない。
ならば、昨日の彼女の涙は····
それは彼女の心が隠しきれなかった小さなサビのような物なのだろうか、
だとしたなら彼女の心はもう随分前から···
「本当はですね?昨日、秋山さんにあんな事を言うつもりはなかったんです」
「あんなこと?」
「名称が無くならない限り差別はなくならないという話です。
本当ならいつもの様にそうです、私は天才なんですと言うつもりだったんですよ」
「なら、どうして?」
「思ってしまったんですよ。
秋山さんにはそう言って欲しくはないと···
なんででしょうね?」
「さぁ?」
俺には分からない。
それは彼女が感じて思った事だから。
俺は手に持っていたスプーンでチャーハンをすくって口に運ぶ。
だが、そのチャーハンはもう既に冷めてしまっている。
それでも俺はそういえばまだ言ってなかったなとあの言葉を口にする。
「このチャーハン、美味しいよ」
「それは良かったです」
その後は2人で少しの間無言のまま食べ続けていた。
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