第14話
次の日、俺はベットに横になりながら国語の参考書を眺めていた。
しかしぎっくり腰の痛みのせいで全然文章が頭に入って来ない。
いくら昨日よりは楽になったとはいえそれでもぎっくり腰になったのなんか俺にとって初めての経験なのだ。
すると玄関のチャイムがなる。
「おっ、来たか」
俺は何とか腰の痛みを我慢しながら扉を開ける。
そこにいるのは凛だった。
実はお昼頃に凛に連絡して来てもらったのだ。
「悪い、助かるよ」
「全く、昨日の今日で何かと思えばぎっくり腰とはね···」
うるせぇ、俺だってこんなつもりじゃなかったんだよ。
そう思いながらも家にあげる。
「あれ?なんで律の癖にこんなに綺麗なわけ?」
「癖にってなんだよ」
「いや、だっていつも律が片付けをしないから遊びに行っちゃダメだって言われて私と紗夜ちゃんが協力して片付けて上げてたじゃん」
「はん、連れ回されたくなかったからわざと汚くしてたんだよ」
「またまたぁ、いつも結局楽しそうにしてたじゃん」
「そ、れは否定できないが俺は忘れてないからな!?たった1人で静岡に置き去りにされたこと!!」
あれは酷かった。
気づいたら田舎に小1の俺1人でポツンと佇んでいた。
もしあの子が来てくれなかったら·····
そういえばあの子は今どうしてるんだろうか
「まだその事気にしてるの?悪かったって言ってるじゃんー」
「忘れてなるものか!1人で寂しく死ぬとこだったんだぞ!?」
「はいはい、ごめんって、でもさ、そのおかげで出会えたんじゃなかったの?一目惚れの子」
「そうだっけ?」
「そうだよー律あの頃はずっと言ってたもんねー」
「なぁ、凛はその子が今どうしてるか知ってるのか?」
頭の中にはぼんやりとした意識だけが残っている。
凛ならば知っていてもおかしくはない気がする。
「しってるよ」
「本当か!?じゃあ今どこで····」
「内緒」
「はぁ!?なんでだよ!」
「お互いに忘れているようだしさ、それにそのくらいのことは人の力を借りないで思い出すべきだよ」
そう言われてしまえば何も言い返すことは出来なかった。
だが、俺が思い出せるのは····
◇▢◇▢◇
「約束だよ!」
「うん!」
▢◇▢◇▢
白いワンピースの帽子を深く被ったあの子の顔はやはり見えそうで見えてこない。
「まぁそんなことより、けっきょくどうしたの?こんなに綺麗にして、独り暮らしになってようやく掃除の大切さに気づいた?」
「んなわけ···」
いや···確かに掃除の大切さには最近気付いてきた。
だが、それはまだ自分からやる訳では無い。
小鳥遊さんにやろうと言われなければ次のテストの時までやらなかっただろう。
「別になんだっていいだろ?」
「ふーん、」
なんだよそのニヤけた顔は····
「じゃあとりあえず服脱いで」
「なんでだよ!」
「湿布貼るんだよ、そもそもその為に呼び出したんでしょ?」
「あ、」
普通に忘れてた。
「ってかそのくらい自分でできるから」
「はいはい、わかったからじっとして」
こんな体勢では対して抵抗することもできずなされるがままに湿布をはられる。
「ほい、完成」
「ありがと」
「律の為だ、気にするなって。
はぁ、もうこんな時間か」
俺も凛につられて時計を見ると6時半になっていた。
そもそも生徒会があったらしく凛が来た時間が遅かったのだが無駄話のせいで余計遅くなった。
本当なら小鳥遊さんが来るはずだったが彼女はまだ来ていない。
まぁ、おそらくまた迷子だろう。
俺と帰れば大丈夫だろうと思った矢先に俺がこんな状態になったんだ。
本当に申し訳ない···
「ならどうせだしご飯でも作ってあげるよ」
「いや、待て!」
だが凛は行ってしまう。
はぁ、小鳥遊さんなら呆れられるだけですんだが凛ではそうはならない。
まず、凛に怒られるだろう、その後それが俺の親に伝わり親に怒られる。
「はぁ、憂鬱だ····」
そして凛が戻ってくる。
その顔はニッコリしていた。
「律?」
「はい、なんでしょうか」
「冷蔵庫に何も入ってないんだけど····」
そりゃそうですよね。
いくら昨日小鳥遊さんが料理をしてくれたからと言っても食材は小鳥遊さんが自分の家から必要量だけ持ってきたのだから俺の家にあるわけも無い。
「それとカップラーメンが大量にあったんだけど?」
「そ、それはほら、災害の時用とか···」
「あんなに必要?」
「さ、災害だって続けてくるかもしれないだろ?」
「へぇ?」
どうして笑顔なのに目が笑っていないのだろうか。
はぁ、女性って表情豊かすぎません?
男子でそんな奇妙な顔をしてる奴なんて見たこともないわ
それから1時間ぐらいだろうか···
途中で電話越しに母親からの説教を受けつつ凛の説教も受けた。
気分としては家庭科の授業を受けていた気分だ。
そしてその頃になって玄関のドアがガチャガチャと開く。
事情を知っている俺としては小鳥遊さんが来たんだなと思うが小鳥遊さんに鍵を渡したことを知らない凛は奇妙に思ったのだろう誰であろうとしばけるように構えている。
「凛、やめろ。小鳥遊さんだ」
「は?なんで彼女が···」
理解できなかったのか頭の上にはてなが浮かんでいた。
だが、すぐに小鳥遊さんの声が聞こえてきたので理解はできなかったが渋々構えをとく。
「すみません!秋山さん!遅くなっちゃいまし····た?」
彼女はドタドタと俺の部屋まで走ってくるなり凛の姿を見てポカンとしていた。
その両腕にはスーパーのビニール袋がぶら下がっていた。
そして凛と小鳥遊さんの目は俺に向かう。
「どういうことですか?」
「どういうことだ?」
だから俺は1から説明した。
「ふーん、2人ってもうそこまで···」
「それより秋山さん、連絡先を交換したんですから私に言ってくれれば買ってきましたよ?」
「小鳥遊さんに任せると一体いつ帰ってくるのか分からないから湿布だけでも凛に頼んだんだよ」
「うっ、、それはすいません···」
「いや、頼んでる側はこっちだし、そんなに謝らなくても···」
彼女は何度も謝るので俺はその度に顔を上げてと言う。
そんなことをしていると凛が帰り支度を始めていた。
「じゃあ私はお邪魔見たいだし帰るよ?」
「おう、ありがとな」
そのまま凛は帰っていく。
それを確認すると小鳥遊さんが聞いてくる。
「あの、ご飯はもう食べましたか?」
「いや、まだだよ」
「そうですか、なら作りますね?」
まだ食べていないことを知った小鳥遊さんの顔はパッとしていた。
そんなに料理を作るのが好きなのだろうか···
「うん、頼むよ」
「あ、ちなみになんですけど昨日砂糖と塩を間違えたりしませんでしたか?」
「多分だけど間違えてたよ」
「そうですか、ゴメンなさい···やっぱり砂糖は右じゃなくて左でしたか····」
「なんか言った?」
「い、いえ。なんでもありません。
今度は間違えないので安心してくださいね?」
「分かった」
それが彼女なりの味覚がないことがバレないように確かめる方法だったのだろう
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