第7話

「それでさ、白愛ちゃん。

やっぱりさ自分の未来のことについては自分で考えた方がいいと思うの、だから文化祭が終わるまでの3週間!もっとじっくり考えてみて?もちろんその間に私にまた相談してくれてもいいし、秋山くんに手伝ってもらってもいいから」

「秋山さんが手伝うかどうかは先生が決めることではないと思いますけど?」

「言ったでしょ?あの子頼まれたら嫌々言うけど引き受けるから。それにさ2人とも北条祭実行委員じゃない?」


ほとんどあなたが決めた、ですけどね···


「そういう時にこそ秋山くんが頼れる男に見えるんだよ!」

「はぁ、」

「ちょっと!その露骨なため息やめなさい!?

もう、とりあえずさ、白愛ちゃんの秘密を少し打ち明けてみたら?」

「なんで私がそんな事を、そんなのまた·····」

「白愛ちゃん、自分でよく言ってたじゃない、相手のことを本当に理解することなんてできないって」

「確かに言いましたけど、それが秘密を打ち明けることとなんの関係があるんですか?」

「簡単だよ。まずさ、秋山くんの事を完全に理解できないなら秘密を打ち明けてもあの時みたいになるなんて絶対には言えないでしょ?

それにさ、秋山くんからしたら白愛ちゃんの事を完全に理解することなんてできないんだから白愛ちゃんが自分から言ってくれないと私もそうだけど分からないことだらけなの」


確かに先生の言う通りなんだろう、でも、私にはやっぱり怖くてその1歩を踏み出すことができない。

それに、秋山さんに申し訳ない。

こんな私のことに巻き込んでしまう訳にはいかない。

傷つくのなら私だけでいいから····


「ごめんね、白愛ちゃん····」

「なんですか急に、先生がそんなに落ち込んでいるとなんだか気持ち悪いですよ?」

「ごめんね、白愛ちゃん、私は先生なの。

私はみんなの先生なの···」

「別にいいですよ」


先生は本気で私のことを心配してくれているのだろうだからこそ、私は最大限の笑みを作る。


「最初から期待なんてしていないですから」


そう言って私は先生を追い抜いて歩く。

今の先生がしているであろう顔は私が見ていい顔では無いのだと思う。

私は先生に心配をされすぎている。

これが公になればそこら辺の人達は事情も知らないで先生のことを責め立てるのだろう。


「先生が悪いんじゃありませんよ」


悪いのは、こんな腐った世界に光を見いだせなかった私です。


「ふふふっ、生徒に励まされるなんて先生失格だね、まったく」

「何言ってるんですか、あと数十年は先生ができるんですから」

「それもそうだね!私ももうちょっと頑張らないとね!

ちなみにだけどそのまままっすぐ行こうとしてるけど白愛ちゃんの家はここを右折だよ?」

「し、知ってますよ?そのくらい!」

「そういう事にしとこうか」


そのまま私たちは右折をすると直ぐに私の暮らすマンションに着く。


「じゃあ今日はご馳走様でした」

「いいのよ、結局奢ったのなんてたこ焼き1つだし、結構高いね?」

「奢ると言ったのは先生ですよ」

「ま、それもそっか。あ、でも、いくら味が分からないんだとしてもちゃんと夜ごはんは食べなよ?たこ焼き1つしか食べてないんだから」

「先生、こういう所でそういう話をしないでくださいよ」

「そだね、じゃあ···」


先生は手を挙げたまま動かなかった。

そしてその視線は一点に集中していた。

私も追うように振り返るとそこには秋山さんがいた。


「秋山さん···」

「ふわぁ~。あれ?小鳥遊さんまた迷子?」

「違いますよ!?」

「そうそう、ちょっと2者面談をしたついでに送っていっただけだから」

「あぁ、そういう事ですか」

「ちなみに秋山さんは何を?」

「ちょっと眠いからそこの自販機でなんか買おっかなって···」


よかった、今の話はどうやら聞こえてなかったみたいですね。


「それじゃあ、私は帰るから後は秋山くんに任せるよ」

「いや、さすがにマンションまで着いているなら俺は必要ないでしょ」

「そうですよ!いくら私でもマンションの中で迷ったのは····1····2····3?····3回だけですからね!?」

「「········」」


だ、だってしょうがないじゃないですか階層事に扉の色が違うって言っても私には時間をかけないとその差なんて分からないんですから、

エレベーターがあるのを知ったのも最近ですし···


「秋山くん、頼むわね?」

「まぁ、お隣なんで任されましたよ」


その後秋山さんが飲み物を買うまで少し待ち一緒にエレベーターに乗る。

私はこの際なので参考までに聞いてみようと思った。


「秋山くんは来年は文系ですか?それとも理系ですか?」

「あぁ、俺は理系かな、文系とかは答えが定まっていなかったりするし、将来、社会に出た時に必要になるのって数学とかの理系だと思うしな」

「凄いですね、ちゃんと将来の事を考えていて」

「別に、凄いか?今どき考えているやつの方が普通だろ」

「普通···ですか」


ならやはり私は普通ではないんでしょうね。


「悪い、何かおかしなこと言ったか?」

「?、どうしてそう思うのですか?」

「いや、少し悲しそうな顔をしてたから···」


あぁ、顔に出ていましたか、ダメですね、心配をかけさせるなんて

少し気まずくなってしまったからか秋山さんが気を使って話題を変えてくれる。


「そういえば小鳥遊さんってなんでいつも告白を断る時のセリフが一緒なんだ?」

「え?あぁ、それはですね。男の子に告白された時はこう答えるといいよってお父さんに言われたんですよ」

「それが····あれ?」

「はい、お父さん曰く、あれを言っても残ってくれる人は自信満々の人か、ただの馬鹿か、本当に····」


◇▢◇▢◇


「白愛?もし男の子に告白された時はこう答えなさい、鏡を見てきたら?って」

「なんでですか?」

「そうしていればきっと見つかるはずだから···自信家でどうしようもないほどのお馬鹿さんだけど、白愛の事をちゃんと想ってくれる人が」


▢◇▢◇▢


「ん?本当に?なんだ?」

「いえ、なんでもないです」


今思えばどうしてあんな根拠もないような事を信じていたんでしょうね。

本当にそんな人が現れるわけもないのに

でも、でも彼は私に関わってしまったらどうするんでしょうか。

そんな事を思っているとエレベーターが止まり私たちは降りるが思わぬ所で転んでしまう。


「きゃ!?」

「おっと!」


だが、何とか秋山さんに受け止めて貰ったことで大丈夫だったのだが····


「小鳥遊さん、大丈夫?疲れてるのか?耳真っ赤だけど」

「あの、···つまで、」

「え?」

「いつまで!触ったままなんですか!?」

「何を!?」


そして、私に言われた事で初めて理解したのか秋山さんの視線はその手の方へと向かう。

そう、私の胸を揉むような形で····

それに気づいた秋山さんはとっさに私から離れる


「ご、ごめん!!」

「い、いえ助けて貰ったのは私ですし···あの、なんか本当にもう、ごめんなさい···」

「い、いや今のは俺も悪かったし」


どうしてでしょうか、どうしてか彼の前だといつも通りの私を演じられていない気がしますね。

今の私は耳まで真っ赤にして、まるでみずみずしいトマトのようになってしまっているのでしょうか···


はぁ、ダメですよ白愛、私は波に襲われてボロボロになって漂着した船、そんな船が誰かを乗せるなんて、してはいけないんです。

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