第6話
竹下さんの告白を断った後、私は職員室の前へ来ていた。
「あの、1年4組の小鳥遊です。青山先生はいませんか?」
「あれー?白愛ちゃん、どうしたの?もしかしてままならぬ事情ができちゃった?」
「いえ、その件じゃなくて···これなんですけど」
そう言って私は紙を取り出す。
「あぁ、選択科目の!それでそれで?決まった?」
「いえ、まだ決まらなくて···」
「そっかーじゃあ今からお出かけしない?」
「はい?」
しかし、先生は話を進めてしまう。
「教頭先生、私、早いですけど帰っていいですか?家でやらなきゃ行けない仕事ができちゃって」
そんな簡単に許可が出るのか?と思ったが教頭は私の方を見ると、仕事は私に任せて行ってきなさいという。
なぜ、家で仕事をすると言ったのに、教頭が私に任せてと言うのかは分からなかった。
「あの、良いんですか?」
「いいのいいの、この学校に長くいる人だけ知ってる暗号のようなものなのよね」
「暗号?」
「そ、家で仕事するって言うのはちょっと生徒と気楽に話し合いたいから何処かでご飯でも食べてきますって言うね」
「それってダメなんじゃないんですか?」
「まぁ、ほかの学校ではね?っていうかこれを始めたのが今の教頭なのよね、相談があると決まってラーメンに連れて行ってくれるのよね。しかも奢りで、あの人の無くなった毛根の数は生徒を救った数だって言われてるのよ?」
どう考えても毛根の方が圧倒的に無くなっているはずですけど···
「そうは言っても私、お金もってきてませんよ?」
「私の奢りよ、ってことで私についてきてね、迷子にならないように」
「ラーメンを食べに行くんですか?」
「いや?私は違うところに行こうかなと思うけど、ラーメンがいい?」
「いや、なんでもいいですよ?」
どの道、私には変わりませんし···
そのまま私は青山先生の後ろについて行くと1件のお店に着く。
見上げて看板を見てみると···
「八焼き?」
「そ、まぁ中に入れば分かるわよ」
そう言われ中に入るとそこは居酒屋のようなところだった。
そして、周りの視線が私に集まる。
それは、私が真っ白だからだろうか···
だが、そんなのはもう何度も経験したので今更、気になることではない。
「あの、まさかお酒を飲む気じゃ···」
「さすがに生徒の前では飲まないかなぁ」
そう言って案内された席に着くと先生は慣れた手つきで注文をする。
というかこの店にはメニュー表がなかった。
「店主!八八を2人前で!」
すると、辺りはザワザワとしてまた、私達の方をみる、そして、店主は先生の事を見るとおう、とだけいい何かを用意し始める。
「おい、八 八を頼むやつが本当にいたのかよ」
「しかも、女子たちじゃないか···」
「あんな、八 一でも死ぬのでは無いかと言われているものを···」
周りのお客さんたちはそんな物騒な事をコソコソと話していた。
「あの、先生。八 八って?」
「あぁ、それは割合の数よ」
「割合?」
「そ、8個のうちの8個って言う意味」
「えっと、何がですか?」
私がそんな事を聞くと先生は店主の方を指さすので私はそっちの方を見ると店主は鉄板のような物に黒みがかった液体を入れる。
あの鉄板の形は···
「たこ焼き···ですか?」
「そうよ、看板の八って言うのはタコの足の本数ね。白愛ちゃんってたこ焼きが好きって白愛ちゃんのお母さんに聞いたんだけど···」
「はい、まぁ、そうですけど。正確に言えばタコの感触が好きなだけですよ」
「イカとかも?」
「まぁ、そうですね」
「じゃあお祭りとかだとイカ焼きを食べたりするの?」
「いえ、というかお祭りに行ったことがないので···」
「えっ、嘘。あ、じゃあちょうど良かったじゃない!うちの北条祭はそこら辺の祭りよりも評判いいのよ?」
そうしていると目の前にたこ焼きと水が入った大きな容器が置かれる。
「そう言えばさっきの割合って何の割合なんですか?」
「後で教えてあげるから食べよ?」
そう言われてたこ焼きを口に運ぶ。
だが、もちろん作りたてほやほやのたこ焼きはとても熱かった。
「あ、熱」
「あらら、大丈夫?ほい、お水」
「ありがとうございます」
私は先生に手渡された水でそれを飲み込む。
それを確認した先生は口を開く。
「ねぇ、白愛ちゃん···」
「なんですか?」
「秋山くんじゃダメだった?」
その質問の答えは私の中ではまだ答えが出ていない。
いや、答えなんて出したくないのかもしれない···
「私には分かりません···」
「そう?」
「先生にとって彼はどんな人ですか?」
「んーそうだなぁ頼まれたら断りきれない人?」
「その割には今日、必死に断ってましたが?」
「それでも最後は引き受けたでしょう?」
先生が無理やり引き受けたことにしたんじゃなかったでしたっけ···
「後は、そうだなぁ。私も彼と出会ってまだ数ヶ月だけどこれだけは分かるよ?彼は物事に中途半端な気持ちで手を付ける子じゃないって」
「そう···だといいんですけど」
「どんなに嫌でも、やるからには最後までやり抜く。そんな子だと私は思うけど?」
私はそれを聞きながら2つ目のたこ焼きを口に運び。
少し噛むと生暖かい汁が出てきて中にはブヨブヨとしたタコがある。
その感触を楽しむとそのまま飲み込む。
「どう?美味しい?」
「さぁ?私には分かりません」
「そ、」
そう言って先生は1つ目のたこ焼きを食べる。
「いや~やっぱここのたこ焼きはいい刺激だよ、最っ高!」
「先生、本当にお酒飲んでないですよね?」
「飲んでないよーあ、そだ。さっき割合について聞いてたよね?」
「はい、あれって結局なんの割合なんですか?」
「あれはね、めっちゃ辛いたこ焼きを何個入れるかって割合なの」
そう言われて私は納得する
周りが物騒なことを言っていたのも、水がこんなに多く用意されたのもそのためだったのか···
「どう?周りの目線は?」
「目線?ですか···」
私が辺りを見渡すと周りのお客さんの目線は私と先生に集まっていた。
「結局人間ってチョロい生き物なのよね。ニュースがそうであるように大きい話題があればそこら辺の些細な問題なんて気にならなくなるのよ。同じように今ここで白愛ちゃんがアルビノってことを気にしてる人なんてほとんど居ないはずよ?
今、周りの人達には激辛のたこ焼きを平然と食べる少女とお姉さんっていう風に写っているのよ」
「お姉さん····」
「おっと白愛ちゃん、そこに反応しちゃう?」
「あ、や、なんでもないです···ただ少し口が滑って!」
「つまり思ってたってことだよね?」
「そ、それは···」
「否定してよ!はぁ、まぁ結局ね私が歳を気にしてるように、人間、悩みの一つや二つ抱えてるのよ」
「私の悩みを先生の歳と同じにしないでくださいよ」
そうして騒いでいると店主に注意される。
「青ちゃん達、騒ぐなら外でやってくれ、ただでさえ青ちゃんには赤字にされそうなんだから」
「赤字?」
「ん?知らないのか?うちの八八を完食したら無料なんだよ」
「·······先生、奢るって知ってます?」
「あ、いやーあはは、」
だから、私は7個目を食べると店主に言う。
「すいません店主さん、私もう食べきれないので残します」
「あ!待って白愛ちゃん!八八って結構高いからやめてーー!私のお財布がー」
「嬢ちゃん、いいのか?」
「はい!美味しいものを食べさせて貰えましたし代金を払うのは当然です」
「白愛ちゃん?私が払うんだけど!?」
「にしても、嬢ちゃん、汗も全然かいてないけど大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫ですよ」
そうして、先生は私の分の支払いを渋々するとお店から出てくる。
「うぅ、私の財布が···」
辺りはもう暗くなっていた。
「じゃあ帰りますか···」
「あ、待って白愛ちゃん、送っていくから」
「ありがとうございます」
「いいのよ、だって白愛ちゃんを1人でこのまま帰させたら3つの意味で危ないじゃない」
「3つ?」
「そうよ、まず、こんな時間に女の子1人は危ないでしょ?それで2つ目は白愛ちゃんの方向音痴」
「うっ、」
「それと3つ目は白愛ちゃん、色が見えないからこんなに暗いと車とか危ないでしょ?」
「それも、そうですね···」
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